サクラクエスト

第7話「煉獄の館」
いきなり凛々子のピンチ。何故か代役に抜擢されてもう17回もNGを出しているのだ。
凛々子役のちぇみーこと田中ちえ美さん、たどたどしい芝居をする芝居が非常に上手い(笑)。

ちなみに凛々子は前回、撮影機材に異常な興味を示していたためスタッフに身内と勘違いされ、内トラ(身内のエキストラ)として呼ばれたという経緯がある。
シナリオには書いてあったんだがカットされていたので、あんな引っ込み思案な子が代役なんて引き受けるわけないとかいう意見もあった。なおコミカライズを担当した古日向いろはさんはしっかり押さえてくれていた。感謝。

増井監督から「ここはただのギャグにしないで凛々子へのフォローもしたいですね」との意見を頂いたおかげでさらに一歩踏み込めた気がする。真希は安易に交代するのを良しとせず、あくまで凛々子に最後までやらせようとする。このままじゃあの子、恐くて二度と人前に出られなくなるから、と。ここを起点にして第11話の民謡独唱へ繋がるのだから実はとても重要なシーンなのだ。また同時に真希の演出方面への可能性も示唆しており、後の龍の民話の舞台化へと繋がっていく。

次はミニゾンビ問題。
今日は雨が降りそうだから明日やる予定だった屋内のシーンを先に撮ってしまいたい、と藤原から無茶振りが来る。
これも実際に私が映画製作を経験したからこそ出てきたアイディアだ。現場ではこういう臨機応変はしょっちゅうある。
ドンドコ倶楽部の子供たちを掻き集めようということで、真希もさり気なく戦線に復帰している。

一方のしおりは依然として問題を先送りしたまま、例の空き家で物思いに耽っている。
ここで出てくるおばあちゃんは「いわゆる紋切り型の老婆ではなくユーモアのある感じにしたいですね」との監督の要望であのような感じになった。確かにこちらの方が切なさが際立つ。ついでに言うと幼いしおりも可愛い。

私が思うに、しおりは温室育ちでこれまで他人からワーッと責められたりしたことがないのだろう。ストレス耐性は極めて低いのではないか。だからこそあのようなほんわかキャラなのだが、いつまでも変わらずにいることは出来ない。
由乃から正論をぶつけられ、思わず酷いことを言ってしまう。

「そんなの……そんなの、ふるさと捨てた由乃ちゃんだから言えるんだよ!」

ここで私は声優・上田麗奈の凄さを思い知った。このセリフを言い放った直後に「はっ」と息を吸う音が入っているのだ。「あ、私酷いこと言っちゃった」という後悔をこのブレスで表現しているのではないか。後でも触れるが、第8話のラストで由乃のために啖呵を切るところもその気迫に毎回涙ぐんでしまうほどだ。

何もかも上手く行かず、喫茶アンジェリカで途方に暮れる由乃。「頑張ってるんだけどな……」という呟きが切ない。
私はこのセリフの後に「うなだれる由乃。泣いているのだろうか。」というト書きを入れていた(基本的にこういう曖昧な書き方はしないものだが、絶妙な塩梅で描いて欲しかったので敢えてそうした)。ちょうど藤原の予想通りに外は雨が降り出している。そのカットバックで何とか雰囲気が出せればと。

その一方で監督の意向としては由乃は基本的に泣かないようにしたい、とのこと。泣いているようにすら見せたくない、ここぞという時に取っておきたいということだろう。本当に最後の最後まで取っておいたものだ。最終話のラストがあれだけ感動的なのも監督の読みによるところが大きい。
よく見るとこのシーン、窓を伝う雨粒がちょうど由乃の頬を伝っているように見える演出が施されている。何て粋な演出!絵コンテ・演出の倉川さん、ありがとうございます。

さて雰囲気は一転、小学校でのミニゾンビ撮影。
早苗が生意気なミニゾンビに尻をはたかれ、「うっせえケツメガネ!」と罵倒される問題のシーン(笑)。
いやホント、これ考えたの僕じゃないからね。監督だからね。当の本人はすっかり忘れておられるようだが。
そういえば第3話でチュパカブラ饅頭のPVを作る時も、車のヘッドライトに照らされる早苗の尻がやけに肉感的に描かれていた。監督の仕業であろう。

真希と父親の巌はここでニアミスをするが、敢えて今回のエピソードでは会わせないようにした。
ただでさえ要素が多いのに父親まで出てきたら軸がぶれる恐れがあるからだ。
逃げるように真希が校内を散策していると凛々子と鉢合わせし、先日の礼を言われる。
ここで初めて、あの時真希がどんなアドバイスをしたのか明らかになる。視聴者が興味を持ちそうなことはリアルタイムでは敢えて伏せておき、然るべきタイミングでオンにする。構成の妙である。

他人には弱みを見せたがらない真希だが、凛々子には何となく話せる。というか、凛々子に芝居の楽しさを教えているつもりで実は自分の中で再確認しようとしている。
ここで白雪姫の流れに繋がっていく。真希はかつて「木」の役だった自分自身に語りかける。

「おい分かってんのか?好きなだけじゃそのうち行き詰まるんだぞ、お前……」

大好きな場面。何度観ても泣く。横谷さんからも褒めてもらえたよしよしペロペロ。何と言ってもここは真希役の安済知佳さんの演技が最高なのである。また凛々子へアドバイスする時の優しい声音、特に「ね?」と言い含める声が素晴らしい。

Bパート冒頭、あのイケメン俳優葉山大雅は完全にゾンビ化(笑)。ベテランの松風さんなのに7話では呻き声しかセリフがなくてすみません。しれっと金髪ゾンビを演じているサンダルさんも素敵。

交通整理をしている由乃としおりは気まずい雰囲気だが、由乃の方からきちんと謝罪するところがいい。結局家は燃やされることになり、しおりも受け入れたようだが、どうもまだわだかまっている様子。「いいも何も、元々私に決められることじゃないから」「……分かんないけど」といった言葉の端々にそれが表れている。その気配を由乃は敏感に感じ取っており、国王として何をすべきか考えるようになる。

そしてここからまさかの挿入歌。
真希が想い出を辿る一連の美しいシーンが始まる。
実は初稿にはこのシーンはなかった。堀川社長からの要望である。「地元に戻ってきたことで気付かされることもあるという視点は欲しいです」と。尺に収まるか不安ではあったが、確かにその視点は必要だなと。私も地方出身で、挫折しそうになった時に地元に帰って決意を新たにしたこともある。
続いてJUMBO齋藤氏から「可能であればここはセリフなしにして挿入歌で行きたいです」と。結果として現在の真希が過去の真希を見ているというアニメならではのファンタジーな演出となり、絵と音の相乗効果で非常に印象的なシーンとなった。映像作品はつくづくチームプレイだなと思う。

喫茶アンジェリカにて、「ファン第一号」からの無言のエールに背中を押される真希。白雪姫の映像、木の役の真希にズームで寄っていく際、一瞬ピントがぼやけるところなんか芸が細かいなあと感心してしまう。ちなみにアンジェリカさんが用意していたカードは二枚とも「太陽」だったという設定なのだが、尺の都合で泣く泣くカット。

いよいよロケも大詰め。民家を焼き払うクライマックスを残すのみとなった。
ボランティアによる炊き出しはスタッフにとっては本当に有り難いものである。ここで早苗と凛々子の妙な会話がある。
早苗「え、フクラギってブリなの?」
凛々子「出世魚」
アフレコに立ち合った際に初めて耳にしたのだが、これは誰が入れたんだろう(笑)。絵コンテか作画の段階で既に入っていたのだと思うが、意味のなさが絶妙なさじ加減で私は大好きである。

民家を焼き払うクライマックスというのはかなり初期段階から決まっていた。これまで割と地味な話が続いてきたこともあり、そろそろ派手な画が欲しいなと。また私は実写から入った人間であり、実写も書けるライターとして呼ばれたわけだが、せっかくならアニメでしか表現できないこともやってみたいと思っていた。
先ほどの挿入歌シーンもそうだが、四季も時代も爆発炎上も自由に描けるのがアニメのいいところだ。もちろんアニメーターさんにとっては大変だろうが、実写と違って物理的に不可能なわけではない。

萌の代役として火の中に飛び込んでいく真希。一連のシーンでワンカットだけ、画面サイズが違うものがある。ビスタサイズだろうか。完成した映画の中にちゃんと真希の姿は映ってるんだよ、という心憎い演出。自分の書いた脚本を深く読み込み、ここまで引き出してくれるスタッフやキャストさんには感謝しかない。

ロケ隊撤収後、5人のパジャマパーティーが始まる。ここまで重めの展開が続いてきたこともあり、一服の清涼剤のようなシーンである。長きに亘るストレスから解放されたしおりがはしゃぎまくるのも無理からぬこと。髪を下ろしたパジャマのしおりはなかなかの破壊力で、視聴者にも好評だった。第一ボタンが外れていればなお良かった。

エピローグでは間野山に関する評判に尾ひれが付いて……という、落語のようなオチ。クスッとさせつつもスパッと終わる、エンタメにおける私の理想とする締め方である。

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