サクラクエスト

これはこれで悪くない。個人的にも好きな話だ。しかしまだ弱い。

何故か。真希の再生に関しては描けているが、由乃ら4人はせいぜいその手伝いをしたに過ぎない。また真希は東京でのワークショップを蹴ってローカル劇団立ち上げを決意したわけだが、そこも説得力があるようであまりない。雰囲気で押し切っている感じだ。まだ東京への未練は残っているようだし、やはり中途半端であることに変わりはない。何と言うか、作品の都合で真希の生き方を決めてしまっている感がある。

この違和感は横谷さんも抱いているようだった。やはりどう考えても真希が採るべき最終選択は「東京に戻って役者を続けること」なのだ。挫折して東京から逃げ帰ったという初期設定をした以上、充電期間を経て再び東京に戻っていくのがドラマツルギーとしては明らかに正しいのである。が、さすがに最終回で一人欠けた状態というのは監督もプロデューサーも納得しないだろう。

では一体どうすべきか。どうすれば真希はちゃんと東京での役者生活に踏ん切りをつけられるのか。

……いや待てよ?踏ん切り?

そもそも真希は戦ってすらいないのではないか?

そう、彼女はちゃんと「負けていない」のだ。負けていないから「終われない」。終わっていないから「次に進めない」。だから全てにおいて中途半端なのだ。
この視点に気付いた瞬間、真希のことが分かった気がした。
と同時に、廃校編全体の見通しは立ったも同然だった。

ちなみに、私が最後の最後まで自分の中で禁じ手にしていたことがある。それは劇中劇の使用だ。
大体の作品において劇中劇や劇中小説、絵画や音楽といったものが効果を発揮しているとは言い難い。登場人物がわざとらしく「これは素晴らしい絵画だ!」とか言ったりすればするほどチャチに見えてくるものだ。
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』でも劇中で茶川が書いた小説がクライマックスで音読されるが、あれも正直ショボかった。やるならそれ単体で作品として成立するくらいのクオリティでなければ説得力などないし、ましてや一部だけかいつまんだところで劇的な効果など望むべくもない。

要するに、作り手が思うほどには劇中劇、劇中作品というのは効果をもたらさないのである。そういった持論があっただけに、私は頑なに真希の劇中劇はやらないと決めていた。今にして思えば『SHIROBAKO』のPAワークスに対して何という失礼なことを言っていたのだろうと冷や汗が出るが、あれは一つの劇中劇の制作を長期に亘って丹念に描いていたからこそそれ単体でも感動できるのである。

結局、もう開き直ってがっつりやることにした。といっても本編中で割けるのはせいぜい数分である。だが重要なのは内容ではない。真希がいかに活き活きと役を演じているか、それさえ伝われば十分なのである。

さて、これで真希の方はほぼ固まった。残る問題は主人公である由乃の話だ。

由乃のドラマは廃校問題と直結させるべきだ。廃校の再利用について由乃が何か画期的なアイディアを思い付き、周囲の無理解をはねのけて実行に移せば結果的に由乃の成長にも繋がるはずだ。

その画期的な再利用法はないか、考えを巡らせ、調べまくった。だがどれだけアイディアをひねり出そうとも、既にどこかの自治体が実践している。ほとんど出尽くしていると言っても過言ではない。

この時の私は、蕨矢集落編の初期において陥りかけたのと同じ穴に嵌まり込んでいた。前作よりも面白くしなければというプレッシャーもあり、ますます画期的なアイディアなるものに拘泥してしまう。

違う、そういう問題ではないのだ。監督が口酸っぱく言ってきた「こういうことではないと思います」の意味がようやく分かりかけてきた。我々が描くのは誰も見たことがない施策などではない。町おこしの過程における由乃らの成長、住民一人ひとりが当事者意識を持ち、誇りを取り戻していく姿なのだ。

ある時、ふとした瞬間に、真希の要素を廃校そのものに重ねようという発想が浮かんだ。神懸かり的な閃きとしか言いようがない。真希だけでなく第二中学校も「ちゃんと終わっていない」ことにしたらどうだ?この学校の役割をちゃんと終わらせるための「閉校式」を由乃らが企画する、そこで対となるべく劇団を立ち上げた真希が不死鳥のごとく復活する。これだ!真希と由乃の問題が互いに重なることで初めて辿り着く構造も美しい。

私の中でようやく腑に落ちた。卒業生みんなで母校をちゃんと「終わらせる」。その上で再利用の方法を住民らと模索していけばいい。まずは自分の母校に愛着を持ってもらうところから始める。この由乃らの意識こそが、一般論だけで町おこしを捉えていた1クール目と大きく違うところなのである。

こうして、ようやく第19話と20話は完成に至ったのだ。冒頭にも述べたが、これほど構想段階で苦労した作品はない。だがその分、思い入れも深い。20話のクライマックス、真希のやり切った笑顔は何度観ても泣いてしまう。

では例によってエア実況を。

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