サクラクエスト

第6、7話の解説にどれだけアツくなっているんだと思われるかも知れないが、私にとってアニメのオリジナル作品は今回が初である。しかも完成した作品が想像をはるかに超えて素晴らしい出来だったことに感激し、語らずにはいられないのである。

さて6話「田園のマスカレード」エア実況。
古臭いビデオ映像でチュパカブラが魔獣(なまはげ?)と戦っている。以前、丑松会長が制作会社に作らせた映画である。しかし途中で予算が尽きて未完成となった。この手の丑松失敗談は毎回入れようと意図していたわけではないが、横谷さんの回も含め結果的にそうなっている。
その映像を見(せられ)ている真希と早苗。ト書きに「真顔で見ている」と書いたら本当にその通りの表情だった。

ここで届いた台本を由乃としおりが運んでくる。
「ふたたびの森」というタイトルは後にこれがゾンビものになることを何となく暗示している。
由乃の口から主演の「葉山大雅」「澤野萌」の名前を直結で言わせたのは、直後の真希がそれを聞いてハッとする時にどちらの名前に反応したか分からせないようにするためである。深読みする人は葉山と何かあったのか?と思ってくれることだろう。

東京からロケの先遣隊がやって来る。
私は2014年に『なつやすみの巨匠』という映画を企画製作したのだが、この時の経験が大いに役立っている。

由乃らと主に接触するのはサード助監督の藤原(CV:古川慎)。園田監督にいつも振り回されている。
彼が今後やるべきTodoリストを由乃に手渡すのだが、弁当の手配やエキストラの確保、撮影許可などは厳密に言えば制作部の仕事である。助監督はあくまで演出部であって監督のサポートに徹する役なのだが、ここでは敢えてウソをついている。
窓口が複数いると話がややこしくなるし、そこをリアルにやるよりは藤原一人にした方が効果的だと判断したからである。あくまで面白さとテンポを優先。リアルとリアリティは違うのだ。

ロケハン中、カエルを早苗にけしかけたりとやたらハイテンションな由乃が可愛い。陽だまりで昼寝している野良猫が出てくるのだが、この一枚絵のなんと美しいこと!さすがPAワークスである。

凛々子の影が薄くならないように注意した。
丑松の名前を出されてキレた千登勢を翻意させるシーンは彼女の機転が利いている。ガッツポーズも可愛い。
ちなみにここ、チュパカブラ饅頭のPVで使われたBGM(あのゲームっぽいやつ)がさり気なく流れている。

いよいよ園田監督の登場。
最初のワンシーンで思い切り蹂躙していきやがった(笑)。「撮れなかったらお前、ファイア♪」改めて凄いセリフだなこれ。ダブルミーニングだし。
思い入れのある民家が燃やされると知り、しおりは大いに悩むことになる。

一方の真希も「好きだからこそ辛いこともあるんだよ……」と由乃に心情を吐露。不穏な雰囲気でAパート終了。

Bパート冒頭。
空き家の持ち主・安田さんに会いに行ったしおり。
ロケ隊の費用負担で空き家を撤去してくれるのだから断る理由もない。「あっさり決まっちゃった……」というしおりのセリフは、ドラマ版『白夜行』の亮司が雪穂の命令で悪事を実行する時の「こんなことばっか上手く行くんだよな……」のオマージュである(気付くわけがない)。

しおりはきっと問題を先送りするタイプだろうと私は見ている。
由乃から進捗を訊かれ、ウソにウソを重ねていくうちにどんどん自分を追い詰めることになっていく。こういうところも人間臭くていいなあと思う。

こういった流れの中で空き家に関する一般的な問題点をさらっと入れることで説明臭さを減じている。
誰も好きで放置しているわけではなく、取り壊し費用が捻出できなかったり所有者不明だったり様々な事情があるのだ。個人の資産なので自治体が勝手に取り壊すわけにもいかない(最近は行政代執行のケースも増えてきたが)。また更地にしたらしたで固定資産税が6倍に跳ね上がってしまう。今回の話の根底にはこういった諸問題が横たわっているのだ。

不穏な空気を含みつつ、いよいよクランクイン。
主演のタケシ役・葉山大雅(CV:松風雅也)、ヒロインのナオコ役・澤野萌(CV:水瀬いのり)の登場。

丑松はここで初めてこの映画がゾンビものだと知ることとなる。
「厳密には死んでないんでオッケーっす」「僕がきっかけ出しますんで、皆さん呻き声を上げながら窓に殺到して下さーい」
タケシの「結婚しよう」からの死亡フラグ即回収。
ここの流れ、大好き。

その裏では由乃が別の空き家を探して奔走したり、出演予定の女優が急遽来られなくなったり、同時多発的に様々な問題が起きている。『SHIROBAKO』にも通じるが、主人公だけでは絶対に捌けないほどの物量をぶつけることで「この先どうなるんだろう」と視聴者をハラハラさせる効果がある。しかも真希のために良かれと思って代役の話を持っていったのに逆にキレられてしまうという理不尽さ。それでも現場から逃げない由乃って実はかなりの逸材なんだよな。

真希にとっては招かれざる客・萌との苦い再会。
この時、桜池のほとりで羽を休める二頭の蝶のカットが出てくるのだが、うち一頭がさっと飛び立っていく。これは先にブレイクした萌と取り残された真希を表現しているのだろう。絵コンテ・演出の平牧さん、ありがとうございます。

「あんたさ、セミ食べたことある?」

いきなり何?と思うことだろう。それが狙いだ。もうここから先の会話に耳を傾けないわけにはいかない。その流れからの、「でもセミは食べなかった!」である。
堰を切ったように延々と負け惜しみを言い続ける真希に対し、その気持ちも汲んだ上で早苗はビシッと言い放つ。

「まあ挫折したり休みたくなったりは分かるよ。私も同じクチだし。でも自分が好きで目指した世界を自分で否定するなんて、みっともないよ」

確か公式ブックで早苗役のみかこし(小松未可子)さんが最も印象的なセリフとして挙げてくれていた。光栄である。

では続いて第7話の解説へ。

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