我ながらあまり面白くない。クライマックスの真希の心の叫びだけは辛うじて見るべきものがあるが、主要キャラにもゲストキャラにもドラマがまるでない。町おこしにも全く進展がない。
文末に自ら提示した問題点が全てを物語っている。
映画ロケ編の時から実は引っ掛かっていたのだが、そもそも真希はどうして東京から間野山へ逃げ帰ってきたのか、その肝心な部分が曖昧なのである。だから真希の再生物語を描きたくてもぼんやりしたものにしかならないのだ。そんなの初期設定の段階で固めといてくれよとぼやきたくもなるが、映画ロケ編に続き真希担当はもはや私と言ってもいい。一から構築できるのは光栄でもある。
映画ロケ編でも触れたが、当初私が想像で補ったのは「とある監督から自分の演技について致命的な欠陥を指摘されたから」という理由だった。その後、直しを経て「後輩である萌に追い抜かれたから」という形に落ち着いたのだが、やはりそれが直接の理由にはならないだろうし、そんな真希は見たくない。まだ本編の中で明言されていない以上、この話数でしっかりと描く必要がある。
では一体何だろう。単純に役者だけでは食えないと痛感したから?でも間野山なんかに戻ってしまえばもっと役者をやる機会は減ってしまうはずだ。しかも戻ってきておいて実家には顔も見せていないという中途半端な状態。私の中で真希のその辺りの心情が全く掴めないのだ。
それに付随して引っ掛かってくるのが父親との確執。勝手に大学を辞めて役者の道に進んだ娘のことを巌はどう思っているのか。とはいえ、子供の頃から真希の才能を褒めそやし続けてきたのも他ならぬ巌である。娘に怒っていることがあるとすればそれは一体何に対してなのか。ここも真希の設定が固まらない限りどうしようもない。
さらに大きな問題として、今回の題材である「廃校問題」がある。これをどう扱えば町おこしアニメとして正しいのか。また主人公である由乃の物語として、何らかの学びや成長を描かなければならない。これについては最後の最後まで私を悩ませ続けたのだが、ひとまずそれは後ほど。
苦吟の末にひねり出したのが以下のプロットである。どこが変わったのか前稿と比較しつつ読んで頂きたい。
『サクラクエスト』第19話&20話プロット1(2016/12/01)
<概要>
真希編。祭具の一つ、楽太鼓があるとの情報を得て廃校へ。そこで父親と鉢合わせし、いよいよ自分の生き方と向き合わざるを得なくなる真希。
具体的なテーマとしては廃校再利用問題、祭りの継承と更新。
<ゲストキャラ>
緑川巌……真希の父。間野山西小学校の教頭
関根百合……間野山市教育委員会委員。
<プロット>
クリスマス間近の12月。楽太鼓があるとの情報を得て、由乃らは間野山東小学校へ。10年前に廃校になって以来、たまに集会で使われる程度でほとんど利用されていないという。
また最近は「血まみれサンタ」が出没する心霊スポットとして噂になっていた。
「ソリが壊れてフィンランドに帰れず間野山で死んだサンタが今もさまよっているとか……」
「もう、怖がらせないでよ凛々ちゃん!」
「てかサンタって死ぬの?しかも何でわざわざ学校に化けて出るの?」
日も暮れかかった校舎の中は薄気味悪く、たまに奇妙な音が響いたりする。次々と怒る怪現象に、由乃らはもう帰ろうかと本気で恐怖する。
「この資料室の中かな……」
引き戸を開けた瞬間、目の前に誰かが立っていた。
「キャーッ!ゴリラ!ゴリラの幽霊よ!」
腰を抜かす由乃ら。しかし真希は冷静だった。
「みんな落ち着け。……私の父親だ」
そこに立っていたのは真希の父・巌だった。
巌から事情を聞く由乃ら。最近、廃校から不気味な音が聞こえたりと近所から教育委員会へ苦情が来ているという。
「それで私が代わりに様子を見に来たんだ」
廃校になっても管理は引き続き間野山市の教育委員会が行っている。由乃らも一応は担当者に立ち入り許可を取っていたが、電話越しの声は事務的で冷たい印象だった。
「で、君たちは何をしに来たのかな?」
「50年前に散逸した祭具があるって聞いたから」
意外と普通に会話をしている真希と巌。二人のわだかまりは一体何なのだろうか。
「楽太鼓か。それなら確か……」
体育倉庫へ案内する巌。しかし、中には古びたマットや跳び箱があるくらいで楽太鼓は見当たらない。
「妙だな。ここに保管していると聞いたことがあるんだが……」
「でもこの学校のどこかにはあるんですよね。また改めて探してみます」
そんな由乃らに対し、
「浩介から聞いたが、君たちはみずち祭りを復活させようとしているそうじゃないか。その熱意はいいが、町の人たちはどこまで賛同しているのかな?」
「え……」
「そのうち熱意だけではどうにもならない状況にも出くわすだろう。まずは形から整えて外堀を固め、根回しをする。大事を成し遂げるにはそういうしたたかさも重要だよ」
自分たちだけで盛り上がっても仕方ない。まずは形から。それもそうかも知れないと思う由乃。しかし真希にはそんな父の言い方がカチンと来るらしい。
巌のアドバイスを踏まえ、由乃は早速実行委員会を立ち上げることに。
「まだメンバーも私たちしかいないから、とりあえず『みずち祭り実行委員会(仮)』ってことで!」
今後は協賛金を募ったり、商店会や青年会も巻き込んでいったりしなければならない。早苗は蕨矢の一件ですっかりプロデューサーとして開眼したらしく、
「だったら祭りの段取りを確認しないとね。広報するにしてもちゃんと当時のこと知っておかないと」
資料によると、50年前までのみずち祭りはまず商店街を神輿の集団が練り歩き、桜池に到着。ここで太鼓や踊りなどの神事を執り行い、神輿を船に乗せて池の中央まで漕いでいく流れになっている。
「結構大がかりだよね……お金も人手も全然足りない」
由乃らが公民館前に差し掛かると、巌の指導のもとドンドコ倶楽部の面々が太鼓の練習をしていた。その中に一組、あまり熱心でない少年と少女がいる。杏志と同じくらいの年頃で、今日は用事があるからと途中で抜けていく。
由乃が巌に、
「あ、そうだ。お祭りでは龍の唄も披露する予定なんです。ちょっと見てもらってもいいですか?」
公民館の中で子供たちに龍の唄を披露する由乃ら。凛々子が唄、真希としおりは間野山踊り。由乃と早苗はホワイトボードに歌詞を書く。
が、子供らにはさっぱり理解できない様子。途中で飽きて遊び始める子までいる。少なからぬショックを受ける真希。
「君たちが復活させる祭りを、今後受け継いでいくのはこの子たちだ。その彼らが夢中になれないものはいずれまた廃れるんじゃないだろうか」
巌の指摘にハッとする由乃。50年前も丑松の一件以来、誰も祭りを続けようとはしなかった。鈴原教授の言っていたように、町の誰ももはや必要としていないからではないか。
「ただ復活させるだけじゃダメなのかも……何か新しいものを採り入れなきゃ」
由乃らは教育委員会に相談するため市役所へ。応対したのは先日の電話の主でもある関根百合だった。
「西小学校の緑川教頭から話は伺いました。皆さん、町のことをとても考えて下さっているとか。私どもも出来る限り協力させてもらいます」
先日とは打って変わって協力的。巌が事前に根回しをしてくれていたのだ。
「ありがとうございます!じゃあ早速ですが、廃校を宿泊施設として再利用することは可能ですか?」
「無理です」
協力すると言った傍からあっさり却下する百合。学校を宿泊施設に造り替えるには膨大な予算が必要だという。また管理人も常駐しなければならない。
今度は早苗が、予め考えていた別の案を申し出る。
「東小学校の体育館に飾ってある卒業制作、あれを駅舎に移設したいんですが」
壁一面に卒業生らによる木彫作品が飾られているのを見て、例の桜池ファミリア計画に使えないかと考えたのだ。
「そういうことでしたら大歓迎です。是非進めて頂ければ」
今度はあっさり了承する百合。要するに金の掛かることはNGということだろう。
再び廃校を訪れる由乃。そういえば怪現象の原因は何だったのだろうと校舎を歩き回る。すると、裏の水飲み場辺りに何やらうごめく生き物の姿が。
「ト……トナカイ!?」
悲鳴を上げ、王宮へ逃げ帰る由乃。トナカイを見たと言ってもみんな馬鹿にして誰も信じない。
「見たんだってば!血まみれサンタの噂はホントだったんだよ!」
アンジェリカの店。
サンダルさんが何やらしょんぼりしている。冬は雪のせいで屋外で自由に絵が描けず、困っているらしい。
「これだ……!」
由乃は再び百合のもとを訪ね、提案をする。
「いま間野山に滞在中の世界的画家にアトリエを提供したいんです、お願いします!」
サンダルさんは空いた時間に希望者に絵のレッスンをしてもいいと言っている。それを聞いた百合は快く了承する。
「まさに文化交流ですね。本来、廃校はそのような目的に利用されるべきだと思っていました。美術室をそのまま流用すればお金も掛かりませんね」
素敵なアトリエを提供されたサンダルさんは大喜び。
「これで作業が進みます。ありがとうございます」
「作業……?」
一方、母校である西小学校の体育館でたたずんでいる真希。かつてあのステージで活き活きと芝居をしていた自分の姿を思い出す。
そこへ巌が静かに入ってくる。二人きりの体育館。
「『放熱山脈』観たぞ」
「あ、うん……」
話題は真希が大学を無断で辞めたことへと及んでいく。
「そのことについては謝る。ごめん。ちゃんと相談してから決めるべきだった」
「私が怒っているのはそこじゃない。間野山へ戻ってきながら家にも帰らず、かといって東京にも戻る気配がない。その中途半端さに怒っているんだ」
巌の言うことはもっともだった。しかし女優の道を諦めた以上、これから何をしたらいいのか分からない。それ以上に自宅に帰れない理由は、他ならぬ巌の期待を裏切ってしまっていることへの後ろめたさだった。
「こっちにいたままじゃ絶対女優にはなれない。それは分かるよね?チャンスが少なすぎるし、芝居を披露する場もない。だから東京に出た。有名になればテレビにも出られる。そしたら……遠く離れてても見てもらえるかなって。それが私にとっての恩返しっていうか」
娘の気持ちは正直嬉しいが、ここははっきり言っておかねばならない。
「じゃあこれから間野山で何をして生きていくつもりなんだ?」
「それが分からないからこんな風になってるんだよ」
「真希。これだけは言っておく。ここを東京の代わりにするな」
「……!」
「東京でやれることは東京でやれ。ここにいるんだったら……ここでしか出来ないことをやれ」
「お父さん……」
「そのための協力なら……私はいくらでも惜しまないつもりだ」
トボトボと帰途に就く真希。ここでしか出来ないこと。本当にそんなものがあるのだろうか。真希が公園を通り掛かったとき、ある風景に出くわした。サンダルさんが子供たちを相手に紙芝居を披露していたのだ。
「昔々、あるところに龍の女の子がいました」
龍の唄の元となった物語を絵で読み聞かせている。子供たちは目を輝かせながら話に聞き入っている。唄だけでは分からなかったものが、物語にすることで子供にもすんなり入っていける。
「こういうことなんだ……」
食べていけるかどうかじゃない、自分が本当に好きなことをやれるかどうかなんだ。
寮に戻った真希は、由乃らにある決心を告げる。
「私……間野山で劇団を旗揚げする。それで龍の唄を元に舞台劇を作る。お祭りの日に発表するの」
「いいじゃん!やろうやろう!劇団名は『チュパカブラ王立劇団』だね!」
「いや、それはちょっとどうかと思う」
ここから後編。
渋柿トリオらを巻き込み、劇団の稽古が始まる。しかし素人相手に真希の思うようにはなかなかいかず……。
(※ダメ一座がクリスマスにお披露目の舞台をやるまでを描くつもりですが、これで一話もつかどうか。また効果的であれば萌を出すのもアリかと)
またトナカイのオチについて。
実は野生のカモシカ親子で、ドンドコ倶楽部の練習を途中で抜けた例の少年と少女がこっそりかくまって食べ物を与えていたのだった。人が来るとマズいということで、怪談話の噂を広めて人を遠ざけようとしたが逆効果。仕方なくピアノを鳴らしたり理科室のガイコツを踊らせたり、怪現象を見せて人を脅かし、追い返していたという。カモシカは天然記念物のため、その後の処置は教育委員会に委ねられることになる。
また楽太鼓も、それが見つかると人が沢山来そうだからと彼らが別の場所に隠していた。こうして無事に由乃らは二つ目の祭具もゲットする。
ラストに和解した真希と巌。
「今年の暮れはどうするんだ。正月くらい戻ってこい」
「うん、まあ……考えとく」
<了>