サクラクエスト

第17話「スフィンクスの戯れ」エア実況&解説。どのような変遷を経て完成品に至ったか、興味のある方は前項のプロットを参照するとより深く楽しめると思う。

さて冒頭。
祭り復活のため三種の祭具を探すことにした由乃ら。手分けして当たっている。

2クール目からの活動を描くにあたり、シリーズ構成の横谷さんが考案した祭具ネタは見事な発明だと思う。町おこしはただ観光客を増やすだけではダメだ、と1クールかけて気付いた由乃ら。祭具探しという名目があるおかげで、観光協会の立場では踏み込めなかった町の諸問題にも踏み込めるようになる。観光の分野を越えた真の町おこしの始まりというわけだ。

鈴原教授に辿り着くまで。
最初は観光協会の美濃から聞く流れだったが、それだと普通すぎてつまらない。せっかく教授なのだから本屋に有名なテキストくらい売ってあるだろう。早苗とは大学時代から因縁があったことにした方が断然いい。

「DIYじゃ無理」の凛々子可愛い。いきなり罠をつつく凛々子可愛い。

「おやおや、珍しいな。タヌキが一度に五匹も」
鈴原廉之介教授の登場。
民俗学ではなく文化人類学にしたのは「研究対象が『今』であること」「フィールドワークとして実際にその地域で長期間生活すること」が重要だと考えたからだ。

『放熱山脈』でしか由乃らを知らない鈴原は当初かなり冷たい態度。「町おこしごっこにうつつを抜かしている」と言い放ち、適当にあしらうつもりだった。しかし由乃からの予期せぬ反論に「……」となる。この無言の表情が重要。こいつら意外と骨があるのではないか、と。それで「少しタヌキたちと遊んでみるか」となるのである。

祭具の一つ、剣鉾の持ち主は教授だった。この情報を初めから提示したのはそれなりの効果を狙ってのことである。この教授を翻意させることに成功すれば祭具をゲットできるという、いかにもなクエスト感を出せる。これまでの漠然とした目標設定とは違い、これからは明確なゴールがあるのだという「分かりやすさ」を明示する。したがってこれは視聴者のみが知っていれば良い情報である。怒濤の展開が続くため、きっと次回の終盤にもなれば忘れているだろう。そこでバーンと出すことにより視聴者は「そこに繋がるのか!」というある種の快感を覚えることになる。同時にご都合感や唐突感をなくせる。

時間や情報量を緻密に計算することにより、伏線でも何でもないものをそのように見せる。脚本家の手腕の一つだ。

真希の「私苦手だわー、ああいうタイプ。誰かにそっくり」
これは次のエピソードへの前振りでもある。5人にはなるべく違うリアクションを取らせることを意識している。それによってキャラが立つ。ずっと鈴原へのヘイトを溜めていた真希が次回の序盤で即落ちするのがまたいい(タヌキにはもったいない酒だ、が対になっている)。

各家の蔵の中を探す過程をコミカルに描きつつ、この集落には自治体からタブレットが配られていること、しかし照明や重石やタイマー代わりにしか使われていないことを情報として入れておく。これが後の教授の一押しによって「まのえす作戦」へと繋がる。

早苗の尻が大好きな雅爺。JUMBO齋藤氏から「これ僕の名前じゃないですかー変えて下さいよー」と言われたが押し通した。ちなみに本人は乳派らしい。

元大工のヒデ爺。あの老人たちの中では穏やかで物分かりのいい方だ。とっくに現役を退いたのに毎日カンナの調整をしている。
「毎日これやんないと落ち着かなくてな。何もしなくていいよって言われても、これで何十年もメシ食ってきたわけだし」
こういう一言があるのとないのとでは後の重みが全く違ってくる。

「Aランチとんかつ定食、Bランチにゅうめんセットぉ」
いつも気だるげなエリカちゃん。ドMの横谷さんもそうだが、私もこのキャラが大好きである。CV黒沢ともよさんの演技が素晴らしい。
てんでばらばらに注文する由乃ら。当初は「はーい。(アンジェリカに)Aランチ5つ」「えーっ!?」だったのだが、さすがにそれは酷いということで却下(笑)。

バス路線廃止のみならず、町の将来についてすっかり醒めきっている高見沢。このキャラは最後までこんな感じなんだろうか、と思わせるくらいでここは丁度いい。ゼロからプラスへ、よりもマイナスからプラスへ、の方が劇的だ。

ツンデレ千登勢と丑松の微笑ましいやり取りがあった後、教授宅で老人らの会合。
気付いた方も多いと思うが、ここで鈴原は由乃ら5人を名前で呼んでいる。初めから知っていてタヌキ呼ばわりしたのか、『放熱山脈』の録画を見直したのか分からないが、認めた相手にはきちんと敬意を払う。そういうディテールの積み重ねがキャラの魅力を生む。

5人に議論を投げかけ、ばったばったと斬っていく様はまるで教授と生徒のよう。Twitterで「頭の悪い順に質問してる?」という意見があったが、実は割と意識していた(笑)。

由乃「ゆっくりエコ運転で走って燃費を……」「不可だな。焼け石に水だ」
しおり「赤字にならないように運賃を上げる……とか」「不可だな。運賃は認可制だから勝手には変えられない」
真希「バスを小さくする」「ギリギリ可だな」
凛々子「自動運転の車が普及するまで待つ」「不可だな。その頃まで私たちは生きてはいない」
最後に早苗が提案した「自主再建型移転」は最も合理的かつ現実的ではあるが、同時にこの場では最も歓迎されざるものであった。理屈ではなく感情に寄り添って欲しい、蕨矢集落の人々はそう思ったことだろう。早苗は確かに博識で優秀だが、まだどこか町おこしについては他人事、上っ面めいたところがある。そこを教授が的確に突いてくる。

「香月君。コミュニティを解体するということはその土地の文化を解体するのと同じなんだよ」
「君は何故、間野山を選んだ?別にどこでも良かったんじゃないのか?」
「別にいいんだよ。私だってこの地に特別な思い入れがあったわけじゃない。ただ、私はここに根を下ろした」

「根を下ろす」というのが後々大きく響いてくる。

さらに教授は「己の武器を活かしなさい」と、早苗に暗に「ITを活用せよ」とアドバイスしているのである。この人、一体どこまで先を読んでいるのだろう。

Bパート、「まのえす作戦」開始

ここからは思い切ってコミカルに。メリハリは大事。

Siriに尻について尋ねるくだり、あれは打ち合わせで実際にやってみての回答である。「親しき仲にも礼儀あり、ですよ」ちなみに声はアンジェリカ役の森なな子さん。本物かと思うくらい上手い。

喫茶アンジェリカにて。
手応えを感じている由乃ら。ついバスの自動運転のことまで言及し、高見沢のナイーブな心を刺激してしまう。
ここで由乃らと本気でやり合ってしまうと後々まで引きずることになる。そこでエリカに飛び火させることにした。エリカ相手にムキになる高見沢。コミカルに描くからこそ、深刻な話題でも重くならずに伝えられるのである。

それにしてもここの口論シーンは最高。「ですぅ~!」と言う高見沢の表情もいい(しかも次回のラストで同じ口調でおどけている)、何よりエリカである。ダサ見沢って(笑)。

脚本ではそのダサ見沢の「うっさいペチャパイ!」で終わっていたのだが、作画段階でエリカが何か言い返して終わりになっていた。アフレコ時に私が考えても良かったのだが、黒沢ともよさんのアドリブに委ねられることに。
何度かのテイクの後、「お前もう出禁だかんな!」という最高のセリフが生まれた。これも後にLINEスタンプになった。ともよさん、ありがとう。

早苗とともに「まのやまチャンネル」のMCを務めるのは上品な雰囲気の源爺。しかしCVはあのエロジジイ雅爺と同じチョーさん。子画面を通じて二人が会話するシーンはチョーさんが同時に二役を演じている。アフレコでその職人芸を目の当たりにし、大いに興奮した。

「別に全世界の人に観てもらう必要はないからね。あくまで間野山の人たちのためのコミュニティだから」
由乃の言うように、ゆっるいローカル番組だがちゃんと機能している。
第2話のチュパカブラ饅頭PVの時は、知名度のない状態から無理に外側へ発信しようとして失敗していた。その教訓が活きている。

ネットに習熟したことでどんどん活き活きしてくる老人ら。誰かが見てくれている、誰かの役に立てるということが人生においてどれだけ大切なことか。

田舎の利点もここで挙げておいた。大音量でジャズを聴いても苦情が来ない。これは非常に羨ましい。渋いアンプを使っていて音楽に詳しい老人がいたら私も通いたいくらいだ。

そんな老人の現況を知った高見沢は何やら思案顔。これが早苗のドラマと融合し、後のデマンドバス構想へと繋がっていく。

黎明期からのネットの歴史を凄まじい速度でなぞっていく間野山の老人ら。
「履歴の消し方」は横谷さんがノリノリで考案したネタだ。
そして作品中一、二を争うパワーワード。

「シゲんとこのキュウリ小さすぎわろた」

JUMBO齋藤氏がボソッと呟いた一言があまりにも面白く、即採用。しかも凛々子が言うから余計に笑える。

一人、教授に呼ばれた由乃。さり気なく王冠を小脇に抱えている。これがないとクーデターのインパクトがないため、教授が持って来させたのだ(笑)。何という有能ぶり。

まのえす作戦は蕨矢集落のクーデターというとんでもない帰結を迎えることとなる。
特に『吉里吉里人』を意識したわけではない。どうすれば一番面白いか、皆で話し合った結果である。
そして物語は怒濤の後半戦へと突入する。

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