続いて第9話「淑女の天秤」。
ようやく地元の特産、そうめんに辿り着いたしおりが打ち出したのは「大そうめん博」。
商店会の納涼会ごと取り込んでしまおうという試みだ。コンテスト形式にして地元の人間にも興味を持ってもらい、同時に物産展を開催することで外からの客もまとめて呼び込む。まさしく三方良しのイベントである。
未だに凹んでいる由乃を丑松はしっかり見抜いている。
「よそ者はよそ者らしく突き進めばいい」
久しぶりのドク登場。自動給湯ロボは私にとっての「あったらいいな」である。これくらいの発明品ならリアリティの範囲内じゃないかと。
熊野がフランス行きを決意したきっかけがフレンチトースト。
後になって横谷さんから思いがけぬ情報がもたらされた。これ実はフランス発祥じゃないらしいんです、と。
もう話組んじゃったしどうしようかと思ったが、「逆に熊野っぽくていいんじゃないですか?」という流れに。こうしてさゆりと熊野は似たものカップルとなったのである。
熊野の「僕は死にましぇん!」から、二人のすれ違いはますます謎めいていく。
私は当初、うるう日を利用したトリックにするつもりだったのだが、横谷さんから「僕、見抜いちゃいました」とドヤ顔で言われたので変更することに。まあここであまり凝ったことをしても仕方ない。
さてBパート。
由乃らはよそ者の視点で昆布に着目する。実は富山は昆布の消費量全国一。富山湾で採れるわけでもないのに何故?北海道からの貿易船によってもたらされたのだとガイドブックを見ながらドヤ顔の丑松。
これは私自身がよそ者の視点で気付いたことだ。ホン作りの前にPAワークスが現地でシナハン(シナリオハンティング)をさせてくれて、居酒屋に昆布焼酎などがあって珍しいなあと。
ちなみに昔の実写業界だとシナハンと称して温泉旅館で豪遊したりしていたらしいが、私の世代でそんな話は聞いたことがない。このご時世にちゃんと取材をさせてくれるPAワークスは何て素晴らしい会社だろう。
しおりが昆布とそうめんを組み合わせようと発想する一方、由乃は何やら悪い顔。ここでのあやサマー(七瀬彩夏)のわっるい芝居はとてもいい。
続いて毒島製作所での由乃とドクの怪しげなシーン。ここは完全に狙いで作ったのだが、分かっていてもドキッとしてしまう。
新メニューがなかなか浮かばず、苦悩するしおり。それ以前に客が来なかったらどうしようと怯えている。
「私は陰で支えるのが向いている」というのはつまり「リスクを負いたくない」「責任は取りたくない」というネガティブな気持ちの裏返しでもあり、生まれて初めて感じるプレッシャーだろう。
大そうめん博当日。
思いのほか盛況でホッとするしおり。
観光客も地元民もバランス良く集まったこのイベントこそ、実は後の建国祭よりも成功したと言えるだろう。初期の『美味しんぼ』で山岡士郎が白米と味噌汁と丸干しだけで資産家の京極氏を感激させたエピソードがあるが、つまりそういうことである。
しおりが苦心の末考え出したのが「よろこぶそうめん」。昆布をふんだんに使ったそうめん版油そばのようなものである。実際に私が妻に作ってもらったので味は保証できる。
ちなみにその写真をTwitterにアップしたら評判になり、実際に南砺市の中華屋さんでも新メニューとして提供されることに。こういうリアルタイムの反応があるのもアニメならではである。
「これが未来の郷土料理へと繋がっていくといいね」という熊野のセリフこそ桜池ファミリア同様、我々が込めた祈りである。今ある郷土料理にしても初めからそうだったわけではない。長い歴史の洗礼を受けて残ったものなのだ。
よころぶそうめんは優勝は逃したものの、市民からのウケはいい。ウチでもやってみようかしら、なんて言う老婆もいる。ここで見せるしおりの満面の笑みは、彼女が本当に実現したかったこと(地元の人に受け入れられること)への手応えに他ならない。
エピローグ、喫茶アンジェリカで高見沢が「例のやつちょうだい」と言い、表の看板には「よころぶそうめん始めました」と書かれている。この光景が来年も十年後も見られますように。
さて、悪い顔をしていた由乃はどうなったかというと、なんと水着でステージに登場。
「流されそうめん5DX」のお披露目である。
初期プロットから存在していたこれ、実は東宝の山内P(めちゃ偉いひと)の発案なのだ。そうめんを使った料理について議論していたある日、久しぶりにお見えになったと思ったら「……流されそうめん」と呟いて去っていかれた。
あ、何か知らないけど無茶やっていいんだ、と私は理解した。
「食べ物を粗末にするな」とドリフのようなお叱りも受けたが、スタッフが美味しく頂いたということで。