名探偵・明智小五郎「黒蜥蜴」

江戸川乱歩原作の名探偵・明智小五郎シリーズ。中でも『黒蜥蜴』は過去に名女優らによって何度も映像化された不朽の名作。
ついに私にも明智が来たか、と感慨深いものがあった。
過去に神津恭介はやったことがあるので、後は金田一耕助が来れば日本三大名探偵をコンプリートすることになる。ただあちらは佐藤佐吉氏の独壇場になっているので厳しいだろう。

前年に『テイオーの長い休日』でご一緒したホリプロの井上竜太Pからのオファーである。地上波では2サス枠が消滅して久しいが、このたびTBSがBSで新枠を組むことになったという。これはTBSにとっても試金石となる企画なのだ。

主演が船越英一郎さんであることは初めから決定していた。「にしたんたんたんたん♪」のCMでお馴染みの某クリニックがメインスポンサーであることから、それは察せられるであろう。
船越さんも『テイオー~』で私のことを気に入って下さっているらしく、「入江さんなら是非に」とのこと。
監督は『神津恭介2』でご一緒した本田隆一さん。昭和大好き、特に乱歩フリークだという。同世代である彼とはまた仕事したかったので大歓迎だ。

以前にも書いた通り、私はもう2時間枠で現役作家以外の原作ものはやらないつもりでいた。予算的に当時の時代そのままでは撮れないため、現代に置き換えなければならない。その際のトリックのアレンジが死ぬほど大変で、苦労の割にあまりにも報われないからである。

今回はその点をクリアしている。
昭和大好き本田監督が、どうしてもあの時代でやりたいと主張してくれたからだ。そのぶんロケ場所の制約があったりするのだが、あのアレンジの苦労と比べれば微々たるものである。

『黒蜥蜴』は単なるミステリではなく、明智小五郎と緑川夫人こと黒蜥蜴のラブロマンスが主軸でもある。
三島由紀夫版の戯曲という最良のお手本があるのだが、権利上の都合で使えなかったのは痛恨の極みだった。とはいえ、抵触しないように留意しつつ、テイストは意識したつもりだ。天知茂の『美女シリーズ』も大いに参考になった。

そういうわけで、これまでの大御所作家原作のドラマ化よりも(無駄な苦労をしなくて済んだという意味で)作業的にはずっと楽だった。こんな時は出来映えも良くなるもので、PもDも非常に手応えを感じているようだった。
私も完パケを観て同じ感覚を抱いた。これ、めっちゃ面白いんじゃ……?

まずは映像作品としてのルックが良い。
昭和感満載の、ざらざらした感じ。ロケ地や小道具にもこだわり、あの「エジプトの星」も数十カラットある本物のダイヤを借りて撮影している。人間の剥製など、乱歩特有のシュールさやエログロナンセンスな表現も抜かりはない。これはもう本田監督の手腕とフェティシズムの賜物であろう。
船越さんはスラリと背が高いので様になる。本人もこの歳で明智がやれるなんて、と相当嬉しかったそうだ。黒蜥蜴役の黒木瞳さんも妖艶かつ儚げで素晴らしかった。樋口幸平、白本彩奈、唯月ふうか、古屋呂敏などの若手もしっかり活躍し、古臭い2サスのイメージとは一線を画したものとなっている。

井上Pも船越さんも次回作をやろうと意気込んでいるようだ。私としても新たなライフワークになりそうな予感はある。

【メインキャスト】船越英一郎、樋口幸平、唯月ふうか、池田鉄洋
【ゲスト】黒木瞳、白本彩奈、古屋呂敏、諏訪太朗、大河内浩
【原作】江戸川乱歩『黒蜥蜴』
【脚本】入江信吾
【演出】本田隆一
【制作】BS-TBS、ホリプロ

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