新・信濃のコロンボ2 北国街道殺人事件

中村梅雀さんから引き継いだ伊藤淳史さん主演のシリーズ2作目。
内田康夫サスペンス『新・信濃のコロンボ2 北国街道殺人事件』

シリーズものというのは一度立ち上げたら最低でも2作目はやるものだ。私もそのつもりでいた。問題はどの原作を扱うか、である。
私はもういい加減、オリジナルでやらせてくれと懇願していた。が、あっさりと却下。そもそも竹村警部のコロンボシリーズというのは原作でも実はわずかしかなく、時代的な問題や予算のことを考えれば実質的にストックはあと四本くらいしかない。当然、どれも中村梅雀の旧バージョンでやっている(一作目の追分殺人事件も)。旧バージョンがどうして十数本もシリーズを続けられたのかというと、内田康夫原作の他の小説から主人公を入れ替えて作っていたからだ。
せめてそのやり方で別の小説を使えないかと制作会社に打診もした。が、ひとまずはストックを消化することが必要だという。せっかくキャストを一新したのに同じ原作を何度もこすることに何の意味があるのか。犬神家みたいに不朽の名作ならまだしも、殆どの視聴者は原作を知らない。しかも予算がないから当時の時代設定のままでは絶対にやらせてもらえない。例によって40年以上も前の原作を現代にアレンジしないといけないのだ。だったらキャラだけ拝借して現代を舞台にオリジナルでやる方がはるかにクオリティも上がるし、こちらも無駄なアレンジに頭を悩ませる必要もない。

まず脚本に着手する前にこれだけの問題が横たわっているのである。
結局はまた今回も私が折れることとなり、ストックの中でも季節や時代の影響が比較的少ない『北国街道殺人事件』が選ばれた。
とはいってもトリック周りのことは問題だらけだ。ネタは一言でいうと保険金殺人で、自分に見せかけて他人を殺害・遺棄するわけだが、今の時代ならDNA型鑑定で一発でアウトである。ケータイの履歴なんかも残っているだろう。こんなところからアレンジしなければ成立しないのである。しかも肝心のストーリーも正直言って面白くない。これは記念館で聞いた話だが、内田センセってプロットも作らずにいきなり書き始めるらしい。私小説やエッセイならともかく本格ミステリを、である。そりゃ行き当たりばったりな展開にもなるよな。さらに言うと、この原作は既に中村梅雀バージョンで佐伯俊道さんが力作を残しておられる。同じアレンジは使えない。何でこんな無駄な苦労ばかり強いられるのか。オリジナルの方がはるかに面白く書けるのに。

ここで私は腹を括り、大胆なアレンジを試みることにした。原作サイドからクレームが来ても構うもんか、面白ければいいんだ。一番大事なのは視聴者に楽しんでもらうことだろ。
下記が今回のあらすじである。

人気2時間ドラマ「信濃のコロンボ」リニューアル第2弾!長野~新潟、北国街道で起きた保険金殺人!?伊藤淳史演じるコロンボVS令和の毒婦演じる栗山千明!迫力の心理戦

長野県・野尻湖で化石発掘調査をしている一区画から、頭部のない死後2~3年が経過した白骨遺体が発見される。事件を担当する竹村岩男(伊藤淳史)ら長野県警捜査一課の捜査は難航。2ヶ月経っても身元不明のままだったが、大森刑事部長(中村梅雀)の助言もあり、遺体が良寛の人物研究における第一人者で大学教授の畑野高秀(佐戸井けん太)であることを突き止める。
畑野は多額の借金を抱えていた。また高額な生命保険が掛けられていたことも判明。受取人は25歳年下の美しき妻・恭子(栗山千明)だ。さらに調べを進めると、恭子が家政婦をしていた谷永和子(伊藤かずえ)も捜査線上に浮上。しかも彼女は高額の保険金が掛かった夫らの不審死に関わっているとして、警視庁の岡部和雄(三浦貴大)がマークしている人物だった……。

“令和の毒婦”と睨む2人が絡んだ、北国街道と東京の不審死事件――長野県警の警部と警視庁のキレ者が難事件の解明に挑む!

原作を知っている方からすれば驚きしかないだろう。原作ではモブ程度だった谷永和子を「令和の毒婦」にして、悲劇のヒロイン・恭子と結び付けるなんてと。しかも前者は既に岡部警部がマークしていることにして竹村警部との合流をスムーズにするという合理的なアレンジ。
この「発明」により、作品のクオリティは一気に飛躍した。ウソだと思うなら原作と見比べてみて欲しい。こんなアレンジが出来る人間は日本広しといえど自分しかいないと自負している。実際、SNSでもかなり好評だった。

監督は一作目の星野和成さんがスケジュールの都合により参加できず、本田隆一さんがメガホンを執ることに。彼とは『名探偵神津恭介』シリーズで一度仕事をしているので安心だった。私と同世代で2サスをバリバリ撮っているという珍しいタイプである。
内容としては、ヲタの期待を裏切らないやじーさんの大活躍もあり、妖しい未亡人役の栗山千明さんも最高の演技を見せてくれた。相当な難役だっただろうに、さすがである。現場でご挨拶させてもらったが、美しすぎて正視できないほどだった。GOGO夕張にトゲトゲハンマーで撲殺されたい人生だった。
それから、谷永和子に洗脳されて殺人も厭わないマシーンと化した男を演じた永岡佑さんという役者のことは大収穫だった。こんな素晴らしい役者がいたのか。彼とはまたご一緒したいと思う。

軽い後日談を。
それから半年も経たないうちに、岩田剛典主演で浅見光彦シリーズが同局でリメイクされた。それは別にいいのだが、作中に竹村警部(伊藤淳史)がチョイ役で出るという。何でこっちが格下扱いなんだよ。しかも局Pは誰も私に対して仁義を切りもしない。そういうとこやぞテレ東。

心機一転ということで頑張ろうと思ったが、やっぱり私はもう2サスを書くことはないだろう。あまりにも扱いが理不尽すぎるのである。

【メインキャスト】
伊藤淳史、三浦貴大、美村里江、矢島舞美、利重剛、長谷川朝晴、中村梅雀
【ゲスト】
栗山千明、伊藤かずえ、佐戸井けん太、小沢和義、永岡佑、矢作穂香、平野宏周
【脚本】入江信吾
【監督】本田隆一

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