新・信濃のコロンボ 追分殺人事件

中村梅雀さん主演の人気シリーズ『信濃のコロンボ』がリニューアル。
内田康夫サスペンス『新・信濃のコロンボ 追分殺人事件』

何と新コロンボには伊藤淳史さん。
梅雀さんは里見浩太朗さんが演じていた大森警視正の役にスライド。
私は旧シリーズの最終作『遠野殺人事件』の脚本も書いているので、新旧どちらも手掛けたことになる。

事の発端はというと、テレ東の阿部Pからの相談である。
2サスが視聴者層の高齢化に伴って各局軒並み撤退し始めたのが数年前。
そろそろ視聴者層もスライドしてきた頃合いだということで、これまでより少し若い層をターゲットに2サスを復活させる気運が局内で高まっているという。
主演の交代も阿部Pからの提案である。梅雀さん、まだまだ主演やれるのによくOKしたなと。色々思うところはあったに違いない。
私も2サスという主戦場を失って鬱々とした日々を過ごしていた。アニメの仕事をやっていなかったら確実に廃業していたことだろう。
とはいえ古色蒼然、粗製濫造の2サスなど淘汰されて然るべきだと自分自身でも思っていたし、あんなことこんなこと、割と腹の立つ扱いも受けてきたのでもう二度とやるもんかと決めていた。

私の気持ちが動いたのは、「新しい2サスを作りたい」という阿部Pの熱意によるものだった。私だってやるからには同年代に向けて書きたい。スタッフや監督も若返りを図るというので、それならばと引き受けることにしたのだ。

ただ、そういうコンセプトであるなら原作も一新すればいいのに。内田康夫、西村京太郎、森村誠一、いずれもミステリの巨匠ではあるが、新しい書き手にも素晴らしい作家は沢山いる。そういった人たちを発掘・宣伝するのもテレビの役目ではないかと思うのだが、やはりこれまでの知名度で安全牌を望むらしい。それでは結局のところ古臭さは払拭できないし、脚色するこちらの身にもなって欲しい。何しろ『追分殺人事件』の原作は30年以上前のものだ。ケータイもDNA型鑑定もない時代のトリックを現代にアレンジする苦労がどれほどのものか、想像してみて欲しい。もうホントにきついんだって。

制作会社は『釣り刑事』シリーズでお世話になっていたGカンパニー。
この会社も2サス撤退のあおりを受け、相当苦しい状況だろうと心配していた。こうなったら私を拾ってくれた恩に報いるためにも精一杯やらせてもらおう、そう考えるに至ったのである。
原作では昭和の夕張の炭鉱事故がモチーフになっている。現代を舞台にすると時代的に一世代くらいのズレが生じる。ここが思案のしどころだった。そこで発想を転換し、今のゲストの親世代が悲劇に見舞われたことにして、そこから現在に続く因縁という構造にした。
メインゲストの国生さゆりさん(これでご一緒するのは何と四度目!)が母親との二役を見事に演じ分けて下さった。この人のおかげでどうにかなったようなものである。感謝。

そして意外なキャスティングといえば竹村の妻役の美村里江さん。2サスに出るとは思っていなかったので非常に嬉しかった。脚本のイメージ通り、太陽のような明るいキャラを演じて下さって一服の清涼剤になったと思う。

さらに旧シリーズと異なる大きなポイントは、竹村に相棒がいること。変人として通っている竹村を描くには、傍に誰かがいると都合がいい。彼の考えを聞き、咀嚼する、視聴者に近い位置にいる相棒。それがオリジナルキャラの寺沢美由紀である。これは早い段階で矢島舞美さんに決まっていた。阿部Pが『駐在刑事』のゲストで矢島さんをキャスティングしたところ非常に良かったということで、今回も出て頂くことになったのだ。
『釣り刑事』のゆるキャラ・城下香津美役の石川梨華さんとは正反対の、クールでシュッとしたキャラ。ずんぐりした竹村と見た目の凸凹感も面白い。しかも動けるので体力方面でも活躍が期待できる(今回はそういう場面はなかったが、パート2では見事なアクションを披露)。相棒役なのでほぼ出突っ張り、ヲタの皆さんは感謝して欲しい。

もう一つ嬉しかったのは、演出が星野和成さんだったこと。以前から『チームバチスタ』などの連ドラでお名前を拝見し、一度ご一緒したいと思っていた。物腰が柔らかく、現場でも決して怒鳴ったりしない、人間的にも素晴らしい方だった。何より、画がもう2サスのそれではない洗練されたもので、追分で若い姉弟が別れていく場面なんか映画並みのクオリティだと思った。

こういう人たちとなら、また2サスと向き合うのもいいか。そう思える作品だった。


キャスト:伊藤淳史、美村里江、矢島舞美、三浦貴大、国生さゆり、徳重聡、篠原ゆき子、林与一、中村梅雀ほか
脚本:入江信吾 演出:星野和成

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