人気シリーズの第三弾。実質これで終わりなんじゃないかなあ。
今回も担当したのは2本。
第3話「星の記憶」
お人好しで有名な質屋の主人が殺される。店頭には「奥多摩隕石」なる石が254万円という法外な値段で売られていたが、調べた結果それはただの石ころだった。しかしそこには生き別れとなった父と娘を繋ぐ秘話が込められており――という筋立て。
「入江さんがこんなロマンティックな話を書くなんて意外でした」とは濱谷Pの言。やかましいわ。
奥多摩の星空を存分に活かした切ない話。隕石をいつか小道具として扱ってみたかったのもあり、個人的には結構気に入っている。質屋の仕組みや宇宙のことも調べると色々面白かった。質屋の主人が度を越したお人好しで、このキャラもかなり好き。まさか橋本じゅんさんが演ってくれるとは思わなかった。『釣り刑事7』以来、二度目。素晴らしい芝居をありがとうございます。
ゲスト:橋本じゅん、川添野愛、佐伯大地、曽田陵介、永倉大輔
第4話「最善の悪手」
このサブタイ気に入ってたのに、オンエア時のタイトルは「将棋大会中に起きた殺人……衝撃の完全犯罪トリック」って。そういうとこやぞ。
筋立てとしてはまあその通りで、将棋のタイトル戦の最中に遠隔で殺人を実行するという大胆なトリックを駆使した。あの滅多に人を褒めない阿部Pをして「入江さん、天才」と言わしめたほど。車のリモコンキー、長押ししたら窓が開閉するの知ってました?知らなかったでしょ?我ながらよく思い付いたものだ。
お話としても、また父と娘の話になるのだが泣けるんだよなこれが。制作会社である東通企画の女性APも「この話数が一番好きです」と言ってくれた。小木さんの芝居も素晴らしい。彼もご一緒するのは二度目。
そもそも「将棋を題材にしたい」って言い出したの誰だっけ。阿部Pかな。自分としては全く不案内なので勘弁してくれよと思ったが、やるからにはと一から勉強をした。アプリで毎日AIと対局したり、将棋に詳しい高校の後輩からレクチャーを受けたり。青野てる坊くん、その節はありがとう。
何というかこの職業、興味がなくても必要上調べなければならず、調べていくうちに興味が湧いて知見が広がることが良くある。こういう機会でもなければ将棋を深掘りすることはなかっただろう。
いずれにせよ、一話完結のたった一本のために脚本家はこれだけ勉強してオリジナルのネタをひねり出すのである。原作のストックなんて私が参加するずっと前に使い切っているのだから。この苦労はもっと知られていいはずだ。
ゲスト:小木茂光、金井勇太、井上小百合、中村織央、泉知束
【総論として】
今期新レギュラーとして加入した女性刑事の和泉玲香(藤井美菜)。
まず断っておくとこれは役者さんのせいでは決してないのだが、まあとにかく評判が悪かった。不本意ながら奥多摩署へ転属となり、一日も早く本庁捜査一課への返り咲きを狙っているバリバリのキャリア志向。男社会の中で奮闘する一匹狼。
こう書くと『ストロベリーナイト』の姫川玲子のようなカッコいい女性キャラを思い浮かべるが、この玲香というキャラは「あー、それやっちゃうか……」といった言動をことごとく見せてしまう。自分が優秀だと思い込み、他人の意見に耳を貸さず、部下を駒のように扱い、自分より階級の低い者は年上であろうと見下す。要するに、男であろうと女であろうと嫌われる要素のオンパレードなのである。そこへ来て藤井さんご本人が至って真面目でしかも芝居が上手いもんだから、相乗効果で視聴者から総スカンを食らってしまった次第。もちろん最終回へ向かうにつれ江波の影響で変化していくわけだが、視聴者はそこまで待ってはくれないのだ。
男社会でいつも虐げられているからとか、そんなもの免罪符にはならない。同じことを自分より弱い相手にやっているからだ。男女問わず魅力的なキャラというのは、自分がいかに虐げられようと誇りを持ち、闇雲に人とぶつかったりせずしなやかに己の信念を貫く人物のことだ。
このキャラ造形の大失敗についてはもう、制作陣の責任以外の何物でもない。何しろホン打ちに参加しているのは自分を含めPもDも昭和のおっさんだらけ。アップデートもされていないテンプレの女性キャラがみるみる形成されていくわけだ。先述の若い女性APが一人いるにはいたが、直属の上司なんかもいる前でやはり遠慮がちな様子が見て取れた。
私自身、この作品においてはサブライターに過ぎず、メインキャラの設定についてそこまで口を挟める立場でもない。「何だかなあ……」と思いつつも反論できなかったという点では同罪である。せめて自分の担当回では愛嬌や優しさの片鱗を見せてあげようとしたのだが、決して十全ではなかった。
いずれにせよ矢面に立つのは役者さんなわけで、一生懸命やってそんな評価じゃ気の毒すぎる。いつか自分がオリジナルドラマをやる時はみんな笑って終われるようにしたい。
キャスト:寺島進、北村有起哉、笛木優子、佐藤寛太、鈴之助、藤井美菜、市毛良枝ほか
監督:皆元洋之助、小林義則、元村次宏
脚本:田子明弘、入江信吾