シリーズ第二弾。
ひょんなことから女優の警護を引き受けた五右衛門が、愛憎渦巻く事件に巻き込まれていく。
私が2時間サスペンスで絶対やらないようにしているパターンというのがいくつかある。
例えば犯人が一人で三人も四人もぶっ殺す、というもの。
いくら復讐とはいえ、一人殺されたからって三人も四人もぶっ殺しちゃダメでしょう。
倍返しの半沢直樹もビックリである。
それも虫も殺さぬような顔をした美女が一人で手際よく始末していたりするから恐ろしい。
リアリティがないし、そもそもそんな犯人に同情できるだろうか。
何度でも言うが私はもとよりミステリを書くつもりはない。
犯人当てなど興味ないし、ロジック優先で記号的に犯罪を描くつもりもない。描きたいのはあくまで人間ドラマなのである。
その意味で今回やっと自分らしい「2時間のドラマ」を書けた気がする。
主人公は刑事ではない。事件が起きてからでなければ動けない刑事とは違い、基本的に何をしていても構わないのだ。
刑事ものが構造的に過去へと一方通行に遡っていく傾向があるのに対し、リアルタイムに変化していく状況を描くことも出来る。
何しろドラマの開始時点では真犯人はまだ犯行にさえ至っていないのだから。
(かといって刑事の八重樫や城下を前半遊ばせておくわけにはいかないため、別の事件を並行して走らせる構成の工夫もしている。もちろんそれはメイン軸にも絡んでくる)
また『釣り刑事2』ではかなりユニークな犯行動機を描いている。
中盤で捕まるあの彼女なんか最たるもの。
「また子役時代のようにスポットライトを浴びてみたかった。注目されたかった」
これ、実は『パコと魔法の絵本』からインスピレーションを得たのだ。
サスペンスの作り手がサスペンスから材を得ることはあまりなく、全く無関係のものをインプットする方がよほどいい刺激になる。
「誰でも納得できる殺人の動機なんていったら復讐、カネ、怨恨くらいしかない。でも人間の心の闇ってそんな単純じゃない、もっと色々あっていいんだよ。100%の人に伝わるものをと思ったらどれも似たような話ばかりになる。3割くらいの人にしか分からないような動機でいいんだよ。その代わり伝わる人には強烈に伝わるんだから」
『相棒』の生みの親であり私の育ての親でもある須藤Pの言葉である。
私は今でも胸に刻んで仕事をしている。
2011年3月、クランクイン直前に東日本大震災が発生した。
現場は判断を迫られた。制作中止か?敢行か?
結果、ロケ車のガソリンや飲み水の確保もままならない中、現場スタッフは撮影を開始。
ただでさえ奥多摩や山中湖などの遠方にロケ地がある『釣り刑事』シリーズである、その苦労は並々ならぬものがあったことだろう。
監督スタッフおよびキャストの皆さんには本当に頭の下がる思いである。
現場の情熱や緊張感がビシビシ伝わってくる見事な作品に仕上がっていた。
クランクアップから2時間ドラマにしては異例の早さで放送が決定、見事に14.5%の全日視聴率一位を獲得したのだった。
自分にとっても愛着あるシリーズとなった。
人気が続く限り、ライフワークとしてずっと書き続けていきたい。
なお、五右衛門の決め台詞「はい、釣れましたー!」や城下刑事の合気道設定が確立したのもこの二作目からである。
ゲスト:高橋由美子、津田寛治、柊瑠美、鶴田忍、小林高鹿、立石涼子、古川小夏、仲川遥香(AKB48)ほか
脚本:入江信吾 演出:皆川智之