52歳の公務員・屯田林憲三郎が事故により転生したのは、乙女ゲームの悪役令嬢だった!?
原作はSNSで読み切りが話題沸騰、すぐさま商業連載が決定した大人気コミック。
これまでに何度もご一緒したMBSの青井Pから、今回はついにシリーズ構成としてオファーを頂いた。
「この原作は絶対、入江さんがハマると思いまして!」とのこと。
確かに親父ギャグやダジャレなら私の右に出る者はいないだろう。芸は身を助けるのである。
2025年1月クールといえばちょうど『チ。』の2クール目が放送中で、その両方のシリーズ構成を同一人物が手掛けていることにSNSでも驚きの声が上がっていた。
この振り幅も私の持ち味。
おかげさまで今作は前評判の高さもあり、大ヒットを記録した。
「dアニメストアニコニコ支店 2025年冬アニメコメント数ランキング」では堂々の第一位!
最大の功労者は言うまでもなく、原作の上山道郎先生である。
この作品には暴力やエロなどの不快要素が一切ない。キャラがみんな一生懸命に自分の人生を生きており、応援したくなる。
悪役令嬢のフォーマットなのに、である。しかもコメディとして面白い。
笑いとは毒であり、誰も傷つけない笑いなど存在し得ない。長年そう思っていたが、今作で考えが覆された。
キャラが一生懸命であるが故にクスッとしてしまう、笑いというよりおかしみの境地というべきか。
打ち上げで監督もキャラデザの松苗さんも同じ事を仰っていたが、まさに「老若男女楽しめる」作品だといえよう。
先生ご本人も朗らかで人当たりが良く、打ち合わせにも毎回参加されて非常に風通しの良い現場だった。
作品と人格は無関係だというが、やはりお人柄は作品に滲み出るものだと最近思う。『俺は全てを【パリイ】する』の鍋敷先生然り。
第2話で青井Pの提案により、冒頭に憲三郎の現実世界での描写を少し足しましょうということになった。
彼の日常をきちんと描くことで、異世界での言動がより面白く見えるはずだという狙いだ。
原作にないためオリジナルで足すことになるが、彼の日常描写(特に役所での仕事描写)は意外と少ない。
限られた情報を基に想像で膨らませてみた。
怒られるかなあと思いつつ出してみると、先生は私の案を土台にさらに膨大なアイディアを提示して下さった。
とにかく先生は生粋のヲタ。知識量が半端ない。ヲタでありクリエイターでもあるなんて最強すぎる。
逆に、こちらのアイディアを原作に採用して下さったケースもある。
第1話で教科書が生徒らに配られるシーン。
グレイスとアンナのやり取りの裏で、ガーネット先生がオリエンテーションしている台詞を追加する必要があった。ほぼ聞こえないが演出上不可欠な、いわゆるオフ台詞である。
そこで私は、「魔法学園における教科書は所有する生徒の魔力に応じて成長し、内容もより豊かになる」と書いた。先生はそれをいたく気に入り、最新作でその要素を取り入れたいと仰って下さった。まさかの逆輸入。こういう懐の深さも先生の魅力である。
もう一人の功労者は竹内哲也監督。
そもそも彼はスーパーアニメーターとして業界内で名を馳せており、請われて今回初の監督を務めることとなった。
ふつう監督は業務が多岐に亘るためリテイクをすることは殆どないのだが、彼は出来る限り自分自身で作画に修正を入れていたという。
作画の高クオリティが終始保たれていたのは、そのおかげなのである。
会話主体のコメディでありながらアクションシーンはやたらヌルヌル動くし。
制作も終盤に差し掛かる頃にはヘロヘロになっておられたが、本作のヒットは監督の熱意の賜物。本当にお疲れ様でした。
各話スタッフに関して特筆すると、第8話と第11話のコンテ・演出を担当された緒方隆秀さんが強く印象に残っている。
間というか、リズム感が心地良いのである。筋運び自体がアニメの理想のような跳ね方をしている。またご一緒したい。
アニメ化を立案したのは先述の青井宏之Pである。
彼はこの作品に並々ならぬ熱意を抱いており、SNSでバズったあのタイミングで早くもアニメ化の打診をしていたという。エンディングに『マツケンサンバII』を採用したのも彼。まあ、ちょっと、頭がおかしい(笑)。しかし見事に作品にマッチしており、SNSでバズるきっかけにもなった。こうしてアニメは作画の良さも相俟って口コミで大ヒット。プロデューサー冥利に尽きるとはこのことだろう。
なお、私がシリーズ構成を務めるときは『チ。』『消滅都市』『博多明太!ぴりからこちゃん』のように一人で全話執筆することが多い。各話の尺の配分に融通が利き、クオリティコントロールもしやすくなるからだ。
今回は委員会からの要請ということで二人のサブライターに入ってもらった。
岸倉弘幸氏は亜細亜堂の他作品でも実績があり、非常に優秀。あの大変な第9話を見事にまとめて下さった。ただでさえ尺オーバー気味なのに『銀河鉄道999』のテーマも無事に入れることが出来たのは、彼の取捨選択のセンスのおかげだ(大胆な特殊エンディングを採用した青井Pの英断も大きい)。
岸倉氏とはこの現場で意気投合し、今では飲み仲間である。いずれ他の作品も手伝ってもらおうと思う。
もう一人、謎のライター・宇野葵氏。実はこれがデビュー作になるのだが、素性については伏せておこう。彼も初めてとは思えないほど手堅い脚本を書かれる方である。
今後はこのようにチームを率いて長期シリーズの作品に当たれる体制も整えていきたい。
今回の仕事で一番嬉しかったのは、憲三郎役の井上和彦さんとご一緒できたことだ。
何を隠そうこの私、人生で大事なことは全て『美味しんぼ』から学んだ人間である。アフレコ後の宴席でご本人に初めてご挨拶し、思いの丈を伝えることが出来た。
中学生の私に伝えたい。「お前、将来、山岡士郎と仕事することになるんだぞ」と。
【スタッフ】
原作:上山道郎
監督:竹内哲也
シリーズ構成:入江信吾
キャラクターデザイン:松苗はる香
美術監督:和田千帆
音響監督:亀山俊樹
音楽:田渕夏海、土田美咲、田中津久美、阿部玲子、澤田佳歩
アニメーション制作:亜細亜堂
【キャスト】
屯田林憲三郎:井上和彦
グレイス・オーヴェルヌ:M・A・O
アンナ・ドール:関根明良
ヴィルジール・ヴィエルジ:石川界人
リシャール・ヴェルソー:梅原裕一郎
オーギュスト・リオン:鈴木崚汰
ピエール・ジェモー:永塚拓馬
ランベール・バランス:山下誠一郎
リュカ・ヴィエルジ:古賀葵
レオポルド・オーヴェルヌ:大塚明夫
ジョゼット:篠原侑
フランセット・メルキュール:桑原由気
学園長:大塚芳忠
【各話リスト(名前は担当脚本家)】
第1話「おじさん、悪役令嬢になる」入江信吾
第2話「おじさん、魔法使いになる」入江信吾
第3話「おじさん、ダジャレを言う!」入江信吾
第4話「おじさん、ビーストを召喚する」岸倉弘幸
第5話「おじさん、二刀流でいく」入江信吾
第6話「おじさん、感涙する」宇野葵
第7話「おじさん、模範演習する」岸倉弘幸
第8話「おじさん、メイドになる」入江信吾
第9話「おじさん、閉じ込められる」岸倉弘幸
第10話「おじさん、男装する」宇野葵
第11話「おじさん、エレガントな大ピンチ!」入江信吾
第12話「おじさん、学園祭で打ち上げる」入江信吾
