第20話「私は、地動説を愛している」
ヨレンタの哲学的で難解な台詞が続くが、一度で分からなくても構わない、なるべく活かそう、と思った。何故なら彼女はこの回でもう……。
ここからは怒濤の展開である。削れる要素などほとんどない。巻けるところで巻いておいて正解だった。
今回も人の死で終わりにせず、ドゥラカたちのピンチまで話を進めている。例の監督の方針である。
第21話「時代は変わる」
25年前の少年はフライだったと判明する回。16話で回想明けをシュミットに直結させなかった意図がここで分かって頂けるだろう。そのままやっていたら混乱する人もいたと思う。
レヴァンドロフスキ君の「了解」がカッコ良すぎたので、ここでスパッとエンディングに行きたかった。そうすると原作七巻のうち一話分(第52話)のみ残ってしまう。これまで一巻につき3話分で進行していたが、ここで初めてこぼれてしまうことになる。だが問題はない。アニメは全25話だからだ。しかも最終第8巻は他の巻より分量が多い。私の計算ではこれでぴったりのはずだ。
第22話「君らは歴史の登場人物じゃない」
愛すべきキャラ、シュミットさんが残念ながら退場。アントニの極悪ぶりが光る回。あんな引っ繰り返し方がありますかホントに。
この話数ではあまり技術的に述べることはないので、代わりにアフレコ現場のことを少し。
他の現場では数分のブロックごとに分けて順次収録していく場合が多いが、『チ。』に関してはアバン、Aパート、Bパートをそれぞれ通しで収録するスタイルだった。各パートのリハの終わりに監督や音響監督が気になった箇所を声優に伝え、次が本番。声優が明らかに台詞を間違えたりしない限り、パート終わりまで通しで収録する。その後、修正すべき箇所のテイクを重ねていく。
いい意味で緊張感が続くので、個人的にはこのスタイルが好ましいと思う。ただそれはキャストが比較的少ないから可能なのかも知れない。他の現場だとマイクが足りなかったり声優のポジションチェンジなどでてんやわんやになってしまうだろう。
第23話「同じ時代を作った仲間」
これも大好きな回。津田健次郎さんの芝居が圧巻。「そうか……お前も見つけたんだな。そのために、地獄に堕ちたっていいと思えるものを……」で涙声になるところ、思わず現場でもらい泣きしてしまった。
例のネックレスが手から手へ渡されていくイメージカットについて。
第2稿までは影も形もなかった。直しを重ねていくうちに思いつくアイディアもあるのだ。第3稿で私から提案したのは、「同じ時代を作った仲間」を映像でも起こすこと。そこでフベルト、ラファウ、オクジー、バデーニといった主要人物のハイライトを短く並べてみた。だがどうにも取って付けた感がある。回想を多用し過ぎな気もする。
次の第4稿の直しの際にパッと閃いた。せっかく目の前にネックレスがあるんだからそれを活かそう、と。いったん却下された気がするのだが、結果的に採用された。スカパー!の長内Pが後押ししてくれたんだったかな。フベルト→ラファウ→黒いローブの異端者→グラス→オクジー→バデーニ→ノヴァクの順にネックレスが渡っていく。「悪役」であるところのノヴァクにまで渡るのがミソだ。個人的にお気に入りで、視聴者からの評判も良かった。
さて、立て続けにドゥラカも退場することになるわけだが、まだエンディングには入らない。人の死で話数を区切らないという方針を最後まで貫き、最終章であるアルベルト編に突入するのである。さあ、いよいよ残り2話。
第24話「タウマゼインを」
終盤になって一体何が始まったんだ?と戸惑う方も多かっただろう。勘のいい人は初回の「P王国」が「ポーランド王国」と実名になっていることに気付くはず。初回の「苦悩の梨」によって裂かれる(オクジーの)頬も、ドゥラカが目を閉じていくときの演出と対になっている。あそこでいったん物語は閉じられ、皮肉にもアントニの言う「君らは歴史の登場人物じゃない」ことを表しているのである。
ただ、告解室の司祭の声が初回冒頭のナレーション、さらにはレフ君の声と同じであることから、どこかパラレルっぽい雰囲気もある。
そこへ来てあの青年ラファウの登場である。
私も原作初読時は戸惑ったものだが、少年ラファウがあのまま狂気に似た信念を純化させ成長していったらこうなっていたかも知れないという、一つの可能性としての存在だと解釈した。コップの水をグイッと飲み干すくだりは、その補強のつもりで入れた。ただし原作者も特に明言はしていないので、視聴者それぞれが感じたものが正解でいいと思う。
第25話「?」
いよいよ最終話。特殊エンディングでもなく、ごく普通に始まって終わるのがいかにもこの作品らしい。尺の計算がビシッと決まった証左でもある。
それにしても何という結末だろう。これまであれだけ信念の大切さについて語られてきた物語が、ここへ来て「疑う」ことも必要だと伝えてくるのである。信じることと疑うこと、それは車の両輪のようなものだと。
かといって、必死で生き抜いた彼らの物語は決して無駄ではなく、あの本のタイトルだけが辛うじて細い糸のようにアルベルトのタウマゼインへと繋がるという、いやつくづくとんでもない構造だ。こんなに美しい結末は観たことがない。魚豊先生の脳内は一体どうなっているのだろう。
このような素晴らしい原作のアニメ化においてシリーズ構成を担当できたのは光栄の極みである。原作既読組も未読組も楽しんでもらえたのなら、これほど嬉しいことはない。
【スタッフ】
原作:魚豊
監督:清水健一
シリーズ構成:入江信吾
キャラクターデザイン:筱雅律
美術監督:河合泰利
色彩設計:近野成美
撮影監督:伏原あかね
編集:木村佳史子
音楽:牛尾憲輔
音響監督:小泉紀介
アニメーション制作:マッドハウス
オープニング主題歌:サカナクション『怪獣』
エンディング曲:ヨルシカ『アポリア』『へび』
【キャスト】
ラファウ:坂本真綾
ノヴァク:津田健次郎
フベルト:速水奨
オクジー:小西克幸
バデーニ:中村悠一
ヨレンタ:仁見紗綾(少女期)、行成とあ
ドゥラカ:島袋美由利
シュミット:日野聡
アントニ:三上哲