私の死体を探してください。

原作は星月渉氏の同名小説。「note」創作大賞2023でテレビ東京映像化賞と光文社文芸編集部賞をダブル受賞。
ベストセラー作家・森林麻美がブログで自死をほのめかし「私の死体を探してください。」という文章を残して消息を絶つ。その後も麻美のブログの更新は続き、さまざまな秘密が次々に暴露されていく。ブログの内容に翻弄されていく関係者たち。果たして麻美の目的は?人間の醜い欲望が溢れ出すノンストップスリラー。

テレ東阿部Pのオファーを受けてから読んだのだが、これがべらぼうに面白い。展開が早く、ページを捲る手が止まらない。久々の連ドラ、それも全話単独執筆というのも燃えたが、何よりようやく現役作家の、今の時代が舞台の作品を脚色できるのが嬉しかった。ブツクサ言いつつも大御所作家の難物をこなし続けた甲斐があったというものだ。

とはいえ、初めは頭を抱えたのも事実。原作は麻美のブログでの告白をもとに話が展開していく。その内容に周囲の関係者が右往左往する造りになっているのだが、ずっとパソコン画面の文字を映しているわけにもいかない。小説だと読者が脳内でイメージしてくれるが、ドラマでは映像に起こす必要があるわけで、かといって予算的にも尺的にも限りはある。何を捨て、何を選ぶか。30分×6話は意外と短い。取捨選択の判断がシビアだなと思った。

まずは全6話のラフなプロットを書くことに。
これでもサスペンスに関してはベテランだ。予算を意識しつつ良い感じに取捨選択してまとめ上げたつもりだった。
が、どうもPはホラーをやりたいらしく、そのアプローチで変えさせようとしてくる。本来、ホラーとは不条理劇であって、この作品には全てに因果がきちんとある。むしろ因果応報の物語でさえあり、分類上はサスペンスなのだ。この前提から齟齬が生じている以上、打ち合わせを重ねても不毛である。
意に沿わぬ改変を要求されたり、私にとってストレスフルな時期が続いた。

そんな中、演出家が打ち合わせに参入してきた。
なんと、私と同業である田中眞一氏。
阿部Pとはいくつかのドラマで脚本家として仕事をしている。
私は一緒に仕事をしたことはないが、何度か飲みに行った仲ではある。馬も合うため、こちらとしては歓迎だった。

脚本家が演出?と思われるかも知れないが実は彼、アメリカの映画学校を卒業しており、映像制作の基礎は身に付けているのだ。楽曲のPVなどの実績もある。
今回は初の連ドラ、それも私と同じ単独(連ドラはスケジュールがシビアなので複数の演出家で回すことが多い)。
彼にとってもいい経験と実績になるはずだ。

田中氏の参加で、これまでとは打って変わってやりやすくなった。
ちゃんと脚本家の視点でこちらの意図を汲んでくれる。そのうえで映像的にブラッシュアップできるような直しを提案してくれる。
この体制になるまで時間を浪費してしまったが、今までの停滞がウソのようにさくさく進んだ。
私もアドレナリン出まくりで大胆なアレンジを提案したり、ようやく楽しくなってきた。

残る問題は原作サイドである。
この作品は麻美のブログの内容描写が大部分を占め、映像的にハードルが高い。いずれにせよ、改変は避けられない。原作者が難色を示せばまた一からやり直しという事態にもなりかねない。
だが私に不安はなかった。
決して原作の「肝」を外していない自信があったからである。

何度かリモート会議で原作の星月先生とお話をしたが、総じて好意的だったと思う。
嬉しかったので、先生のブログを引用しておく。

ここからは完成後の総括。
基本的に原作通りの流れだが、構成において一番大胆なことをやったのは第3話である。
全6話しかないのに、一話まるまる過去編をやったのだ。仲良し女子高生5人組の悲劇。これが物語の全ての始まりであるがゆえに、しっかり描くべきだと考えたからだ。
このためだけに5人分のオーディションをしたり、PもDも乗り気だった。

キャスティングは深夜枠にしては豪華だったと思う。
メインのキャスティングではまず各事務所のマネージャーさんに脚本を読んでもらうところから始まるのだが、総じて評判が良かったそうだ。脚本を読んで出演を決める俳優さんも多いので、私もいくらか貢献したと思う。まさか、かたせ梨乃さんに出て頂けるとは。
個人的には、とにかく主演の山口紗弥加さんが素晴らしかった。
虚無と激情を併せ持った麻美の独特の雰囲気、演じられるのは彼女しかいない。
夫役の伊藤淳史さんは最初はイメージと違うのではと危惧したのだが、ラストのどんでん返しを考えれば壮大なミスリードとして機能していたとも言える。
また、ドラマ化において一番「育った」キャラが要潤さん演じる編集長・神永。原作では主要キャラ全員と関わりがあるが、ドラマ的にはそれほど絡んでこない。だが立ち位置的にこれほど「おいしい」キャラもいない。書いているうちにどんどん私の中で育っていった。
私が原作から感じたテーマ「愛と執着」を彼もまた体現するキャラとなり、とても気に入っている。

余談だが一人、この作品を通じて貴重な再会を果たした相手がいる。
『相棒』の生みの親、松本基弘Pである。
私がデビューした『相棒Season4』の頃はテレ朝のPだった。最後にご一緒したのがSeason6だから、17年ぶりの再会か。
まさかテレ東の子会社である制作会社PROTXにいらっしゃるとは。今回の作品ではプロデューサーの一人として名を連ねている。
とにかく松本Pは褒めてくれる。デビュー作「波紋」の時も、「『相棒』でこんな切り口がまだあったなんて目から鱗でした」とわずか30分で初稿へのゴーサインを出して下さったのを今でも覚えている。褒めないPが多い中、貴重な存在である。今回の制作初期のギスギスしていた頃も彼のおかげでどうにか保っていたくらいだ。彼とはまたいつかご一緒したい。

とまあ、初めこそ色々とPへの不満はあったが、出来上がった作品を観れば苦労も吹き飛ぶというものである。アニメと比べると実写はホントに面倒臭いことが多い。それでも私は今後も二刀流でやっていきたいと思う。

【キャスト】伊藤淳史、山口紗弥加、恒松祐里、要潤、かたせ梨乃、本宮泰風
      伊礼姫奈、平澤宏々路、早坂美海、白井美海、鎌田らい樹
【原作】星月渉『私の死体を探してください。』(光文社刊)
【脚本】入江信吾
【演出】田中眞一
【制作】PROTX

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