テイオーの長い休日

リアル2時間サスペンスの帝王・船越英一郎が、一年以上仕事がない2時間サスペンスの帝王役に挑戦!
完全オリジナルドラマのメインライターを務めることが出来た。これは間違いなく私の代表作になるだろう。

企画の経緯

まずホリプロの井上Pから連絡があり、いま東海テレビのPと船越英一郎主演で企画を練っている、と。「落ちぶれた元2サスの帝王が2サスで培った知識を駆使してご近所の事件を解決する話」だという。しかも本人役。はあ。正直あまり気乗りはしなかった。どう見ても2サスのパロディにしかならないからである。

似たようなコンセプトでかつてフジで『船越英一郎殺人事件』というのがあった。船越さんが本人役で2サスよろしく殺人事件を解決するという話。他にもつい最近、テレ東で『警視庁考察一課』というのをやっていた。2サスの主演クラスが集まってほぼ本人の設定で事件を解決する、2サスアベンジャーズみたいなコンセプト。どちらもまともに観てはいないが、あまり良い気はしなかった。どちらも「2サスはダサいもの、低俗なもの」という前提に立ち、その常連である役者らを使って笑いを取ろうとしているからである。あんたらベテラン勢も嬉々として出演してんじゃないよ、どう見られてるか分かってないわけじゃないだろうに。これまで20本以上2サスを書いている私としても、自分のキャリアを貶されている気がしたものだ。

気乗りのしないまま2022年11月頃には東海テレビの松本Pとも対面し、私がメインライターになることが正式に決定した。ひとまず初回のプロット作業に入ったのだが、事件の概要としては当初からほぼ変わっていない。とあるシングルマザーの経営する洋食屋が放火され、その子供たちが「犯人を見つけて欲しい」と船越英一郎に泣きついてくる。船越はシングルマザーに一目惚れしたことで協力を快諾、かつて2サスで火災調査官の役をやった際に培った知識で真相に辿り着く、という筋立て。地上げ屋の仕業かと思いきや、まさかのシロアリが原因だったというオチもこの頃から変わっていない。毎回このように「過去に2サスで演じた職業の特性を活かして事件を解決する」というフォーマットは既に固まっていた。また、これは井上Pの好みだと思うが、寅さんのように毎回ゲストの女性にフラれるというパターンも決まっていた。

このパターンだといくらでも話を作ることは出来るが、終着点へ向かっていく連ドラには成り得ない。一話完結の事件ものと一緒だ。それでいいのか。また船越さん本人も「本人役ではなく架空の名前にして欲しい」と言っていたそうで、これは私もずっと要求していたことだ。本人役だと色々制約もあるし、とにかく書きづらい。気を遣いながら書いてもホンは弾けないのだ。
その際、船越さんがある提案をして下さったそうだ。落ちぶれた2サスの帝王が主人公という設定は受け入れるが、ご近所のトラブル解決ではなく「ワケありシングルマザーのマネージャーとタッグを組み、業界に返り咲こうと奮闘する話」ではどうか、と。なるほど、敗者のリベンジ譚か。これならやれそうだと思った。自分らが作ってきたコンテンツをオワコンとして嗤うのではなく、まだ視線が未来を向いていたからである。

熱護大五郎というキャラクター

こうして「元2サスの帝王と元敏腕マネージャーのバディもの」という大枠が決まり、私のモチベーションも俄然アップ。事件解決はマストだが、ジャンルとしてはバックステージものということになる。むかし三上博史がやっていた『チャンス!』というドラマの壮年期版とでも言おうか。
初回は先述のシングルマザーをそのままマネージャーの吉田ゆかりにして、事件もほぼ同じ流れでいくことに。ただ、ドラマのベクトルとしては全く違う。「一緒に返り咲きましょう!」という強いモチベーションがあるからだ。
プロットもいい感じにまとまったのだが、どうもまだ熱護というキャラクターが定まっていない。この時点で私はまだ連ドラの定石として「成長する主人公」に無意識に拘っていた。初めは落ちぶれて卑屈で嫌なヤツだが、人と関わっていくうちに己の傲慢さを反省し、成長していく主人公であるべきだ、と。
だが、船越さんが言うには「別に無理に成長しなくていいんじゃないか」と。熱護はあくまで頑固でシニカルでわがままな役者バカ。それによって変化するのはむしろ周囲の人間であればいい――。
それを聞いたとき、私の中でハッとある作品が浮かんだ。『リーガルハイ』だ!そうだ、あのパターンがあった!ああいうキャラなら自分は得意中の得意だ。

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