アノニマス ~警視庁“指殺人”対策室~

香取慎吾主演のサスペンスドラマ。
SNSによる誹謗中傷対策専門部署「指殺人対策室」に、ワケあり捜査官・万丞渉が赴任。個性豊かな指対室メンバーらとともに、顔の見えないSNSの闇と対峙する。

あの同世代のスター・香取慎吾さんと仕事する日が来るとは夢にも思わなかった。しかも一話完結の刑事ものという得意分野で。

私が参加した経緯はこうだ。
元々これはテレ東の元慶応ボーイ・濱谷Pが企画したもので、同じ慶応卒の後輩にあたる若手ライター二人とホン作りを進めていたらしい。ところが二人の筆があまりにも遅く、これでは間に合わないと案じた阿部Pが急遽私に声を掛けたというわけだ。

途中参加したのは11月半ば。オンエアが1月だというのにホンはまだ一本も上がっていない有り様である。そこから私はあっという間に2話分仕上げ、ピンチヒッターとしての役目をきっちり果たした。
やはり餅は餅屋、刑事ものは書き慣れた人間がやるべきなのである。濱谷Pからも「入江さんに入ってもらって非常に助かりました」とのお言葉を頂いた。

それはいいのだが、先に入っていた若手ライター二人は私をどう思っていたのだろう。メインライターの小峯氏とは二度ほどホン打ちで一緒になったが、サブの玉田氏に至っては顔すら合わせていない。連ドラはプロデューサーというハブ機能があるからライター同士の連携がなくてもホン作りに支障はないのだが、濱谷さんのような私信は彼らから一度も来なかった。
普通さあ、自分らのせいで現場がバタバタしてるところに入ったピンチヒッターに労いとか感謝の言葉とかあるよね?しかもこっちは一応先輩ですよ?私だったら悔しさと牽制も込めて「今回はありがとうございました!またどこかでご一緒できたら嬉しいです」くらいは言うけどな。まさか、「後から来て俺らの仕事奪いやがって」なんて思ってはいないだろうね。まさかね……。

ともあれ、私としては同世代が主演のドラマに参加できて非常に嬉しかった。作品自体も予算こそ潤沢ではないものの、2サスでは有り得ないような洗練された画作りで興奮した。撮影部と照明部の力!
役者さんも実力派揃い。勝村さん、MEGUMIさんはもちろんのこと、清水尋也くんも素晴らしかった。以前から映画で注目していたんだが、コメディもシリアスもどちらもイケるね。関水渚さんは経験が浅いながらも天性の素質を窺わせた。彼女のポジションって正論ばかり言ってる割にドジという、一歩間違うと嫌われ役になってしまいがち。そこは私なりに気を付けて、彼女なりの優しさ(「また彼に助けられたね」の台詞)とか独特な着眼点(ブレスレットのラブラドライト)とか肉付けはしていったつもりだ。
そして何より香取慎吾さん。彼はロングコートを着て立っているだけで画になる。無口なほどミステリアスに映るし、たまに見せるお茶目なところ(二度見からのねこねこにゃんにゃん)なんかも魅力的。リアルで大親友でもある山本耕史との共演は『新選組!』を観ていた私にとって最高のご褒美だった。

惜しむらくは、当時コロナ全盛だったため打ち上げはナシ、撮影見学にも行けずじまいだったことだ。結局ただの一度も香取さんご本人にお会いすることは叶わなかった。一緒にスタジオに詰めて曲を作ったという江﨑くんらが羨ましい。

あ、江﨑くんというのは……実はこの作品にはもう一つ驚きのネタがあって。
主題歌を手掛けているWONKというバンド、そのキーボード担当の江﨑文武くんは何と高校の後輩。しかも、私が2015年に製作した映画『なつやすみの巨匠』の劇伴を担当してくれた間柄でもあるのだ。当時、彼はまだ東京藝大の学生だった。それがバンドを組み、メジャーデビューを果たし、こうしてまた一緒に仕事が出来るなんてこれ以上の喜びがあろうか。
めちゃくちゃカッコ良かったよね、この主題歌。劇中でも絶妙なところでかかるのよ。サビ直前のミュートがまたいいんだな。

さて、オリジナルなので私が担当した話数の解説でも。

第4話「匿名の恋人」
ゲスト:田中美里、山本浩司、小松和重、前川泰之
きっかけは「不倫ものがやりたい」という、例によって阿部Pの思い付き発言。ちょうど海外で、不倫妻を懲らしめるために夫がSNSで不倫相手に成り済ますという事件があった。これを基に「夫婦の愛憎」というテーマで組み立てていき、ただ同じことをフィクションでやっても仕方ないのでストーカーネタと「前科者の更生」というテーマも同時に走らせることに。
SNS上の成り済ましもあってなかなか複雑な構成だが、叙述トリックっぽくいい感じにハマったと思う。
ゲストヒロインを元アイドルにしたのも効いており、実はモロ世代である万丞が思わず二度見して「あ、ねこねこにゃんにゃん」と言うところは最高だった。シリアスなこの作品にいきなりギャグをぶち込んでしまって申し訳ないことをしたが、久し振りの連ドラでついついはしゃいでしまったのだ。これくらい許してちょ。
ストーカー役の山本浩司も良かったが、夫役の小松和重の熱演は収穫だった。

第6話「偽りの復讐」
ゲスト:川島鈴遥、楽駆、田中偉登、岩上隼也
これは私がいつか使おうと温存していたネタが基になっている。まさにSNSの闇ということでこのドラマで使わずしていつ使う、と。
恋人を誘拐されたと指対室にやって来る末松香(川島鈴遥)。ここから拉致監禁事件がリアルタイムで展開していく。
クライマックスで全てが逆転する様はまるでSNSの世界そのもの。見方次第で真実はフェイクに、フェイクは真実になる。
この話はヒロインの演技力に全てが懸かっているといっても過言ではない。川島鈴遙さん、まだ若いのに素晴らしい演技力とそして覚悟だった。クライマックスなんかずっとカメラに向かって芝居しているわけで、演出もよくここまで大胆にやったなと心から拍手を贈りたい。おかげで彼女の辛さや悔しさ、悲しみが痛切に迫ってきた。

今回は咲良(関水渚)も活躍したと思う。ブレスレットの石(ラブラドライト)から香の意思を読み取ったり、救出した後に「また慶太君に助けられたね」と言葉を投げかけたり。ここの台詞、好きなんだよなあ。
万丞も間一髪で香を救った際の「何やってんだ……ッ!」という腹の底から搾り出したような言い方が素晴らしかった。
そして万丞と本格的にケンカしてしまう四宮(清水尋也)。互いの理念のぶつかり合いがアツかったし、現場特定の際の大活躍も良かった。

個人的に第6話はかなりの自信作だし、まさに「指殺人」というこの作品のテーマを体現していると思う。
……続編やんないかな。真っ先に駆け付けるのにな。


【キャスト】香取慎吾、関水渚、MEGUMI、清水尋也、山本耕史、シム・ウンギョン(特別出演)、勝村政信ほか
【監督】 及川拓郎(#1~3)、湯浅弘章(#5 #7 #8)、大内隆弘(#4 #6)
【脚本】 小峯裕之(#1 #2 #7 #8)、玉田真也(#3 #5)、入江信吾(#4 #6)
【音楽】 山下宏明、丸橋光太郎
【主題歌】 香取慎吾「Anonymous (feat.WONK)」(WARNER MUSIC JAPAN)
【オープニングテーマ】 アイナ・ジ・エンド「誰誰誰」(avex trax)

ジャンル一覧