中村梅雀さん主演のシリーズ第三弾。
妻を亡くし失意の五右衛門が、事件を通じて哀しみを乗り越えていく。
ホン作りに二転三転、実に苦労した。その甲斐あって完成度はシリーズ中屈指だと思う。
おもしろマドンナ城下刑事も色々おかしなことになっている(笑)。
今回から妻の牧恵(益戸育江)がいなくなった。
中の人の事情である。
『相棒』の女将の方でもバタバタと交代劇が起きていたが、あちらは「しばらく旅に出る」というシーンを撮れただけまだマシである。こちらはその余裕もない。
レギュラーを二つも抱えていながらよく降板できるよなあと思いつつも、起きてしまったことは仕方ない。冷静に対処するのがプロである。
ちょうどその頃ホン作りの真っ只中だった。おかげで全面改訂を余儀なくされた。
では具体的にどうするか。
妻役を別の女優に入れ替え、何事もなかったように扱うのも一つの手ではある。
逆パターンだが東映作品でも「そっくりさん」現象はよく見られる。
だがそれでは私の気が晴れない。
鈴木牧恵というキャラは文字通りあの世界に生きていたのである。誰がやっても一緒のキャラなんかじゃない。
ならばきっちり作品の中で成仏させてあげたい。
そうしなければこれから先ずっと自分の書くものはウソになってしまう気がしたからだ。
というわけで、牧恵は半年前に心筋梗塞で亡くなったという設定にした。
そのため五右衛門は気落ちし、釣りもスランプが続いている状態、といった風に設定も変化していく。
結果的にはこれが物語を一段深めることになったと思う。
彼を心配し、それぞれのやり方で慰めたり発破を掛けたりする八重樫や城下、稲田教授ら。
悲しい事件を通じ、それでも人と人との絆の尊さを感じ、ずっと言えなかった感謝の言葉を妻の遺影に語り掛けることで五右衛門自身も救われるという形になったのである。
このためいつもの明るさにやや影を落としてしまい、数字にも影響するかと不安だった。
DVD化される連ドラと違い、2時間ドラマはまさに結果が全て。
数字が悪ければ即シリーズ終了も有り得るのだ。
だが幸い、時間帯視聴率は三連覇を達成。
相変わらず『釣り刑事』は数字を持っていることを証明したのだった。
今回私が最も拘った小ネタは城下の巨大サンドイッチ(笑)。
そんなものどうやって作るんだ、頼むからやめてくれと現場から散々言われたのだが、こればかりは何故か譲れない。
それこそ私の方が降板も辞さない覚悟で臨み、どうにか実現に漕ぎ着けたのである。
どんな熱意なのだろう。
おかげで前代未聞のヘンテコシーンが撮れた。
スタッフには心から感謝している。
ゲスト:原日出子、前島亜美(SUPER☆GiRLS)、螢雪次朗、寺田農、吉田羊、土屋裕一、小松彩夏、根本りつ子、片岡明日香ほか
脚本:入江信吾 演出:皆川智之