深川監督とは実は同い年である。
私と同じく昭和好きで、劇中至るところに時事ネタを盛り込んだ。
「クイズダービーではらたいらが竹下景子に負けた」とかは私。
「自粛しなよ」「ほとんどビョーキ」とかは監督。
(これ、ベルリンでどう翻訳されたのだろうか・笑)

数々の実績が示す通り、彼は恐ろしいほど才能溢れる人物である。
映画版『白夜行』の素晴らしさの一つとして挙げられるのが、懲りに凝った美術。
また銀残しというフィルム現像技術を用いて(かつての市川崑のような)古めかしい画の質感を出したりもしている。しかも字幕が縦書き。あれには痺れた。

ホン打ちが進むにつれ商業的な観点の議論も出てくる。
「この映画はどこで泣かせるのか」といった話になった時、監督が毅然と言い放った言葉が印象的だった。

「映画は泣かせるための装置ではありません」

心底、映画が好きで、文字通り映画に人生を捧げている男の言葉だ。
特にこの作品には並々ならぬ思い入れがあったようで、演出に際して亮司の心情なんかを想像する度に心が沈み、毎日嘔吐しながら現場に臨んでいたという。クランクアップの頃にはげっそり痩せていた。

それはきっと雪穂役の堀北真希、亮司役の高良健吾もそうだっただろう。
現場は異常なほど重苦しい雰囲気だった。
船越英一郎さんも2時間ドラマの帝王ぶりを封印し、こんなにも年若い監督の演出に応え、素晴らしい枯れた演技を見せてくれた。

本当に、スタッフキャスト全ての人達が一流だったと自信を持って言える。
そんな作品に関わることが出来て私はつくづく幸せ者だと思う。

なお本作は第61回ベルリン国際映画祭・パノラマ部門に正式出品された。
世界三大映画祭のあのベルリンである。私も同行したかった(涙)。

キャスト:堀北真希、高良健吾、姜暢雄、緑友利恵、粟田麗、今井悠貴、福本史織、斎藤歩、山下容莉枝、宮川一朗太、小池彩夢、吉満涼太、佐藤寛子、並樹史朗、中村久美、黒部進、田中哲司、戸田恵子、船越英一郎

原作:東野圭吾 脚本:入江信吾、山本あかり
監督・脚本:深川栄洋